それからは何となく、本当に何となく久々知と会話を交わすようになった。無難な会話。互いにはほとんど踏み込まないし、そう長く話し込む訳でもない。例えば今日は暑いとか、あの教授の指導は髪の毛同様薄っぺらいとか。
 久々知はあの日以来、俺を名前で呼ぶことはなく(実際は呼ばれていないが)、思わせ振りな態度もないため、俺も警戒心が程よく薄れていった。





 そんなある日の夜。人数合わせに呼ばれたお持ち帰り厳禁の合コンの帰り、ばったりと久々知に出くわした。

「あ、鉢屋」
「おぅ」
「何してんの?」
「飲みの帰り」
「ふぅん」

 暇なら寄っていかない?
 軽いノリに酒の力もあって頷いてしまった。一緒にいて楽な人間だし、まだ宵の口だし。それにこの飄々として今一掴み所のない男に対する興味関心。
 何でもない会話をしながら、学生向けのボロいアパートまで二人、並んで歩いた。




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