燻る苛立ちを抱えてさ迷う。夜の繁華街は喧騒に満ちていて、それが俺を余計に苛立たせる。何でもいい。何かしら吐き出したい。

 不意に怒声が耳に飛び込んできた。揉み合う人間二人。片方は明らかに男だったが、もう片方は性別が曖昧だ。
 長く黒い髪を束ね、ネオンに浮かび上がる白いシャツは大きく胸元が開いている。胸はない、が女顔。細身のジーンズもユニセックス。しかし引っ掴んで来ました然としたジャケットは明らかに男物。ついでに言うなら、喧嘩の内容はヤるのヤらないの痴話喧嘩。
 無駄に攻撃的かつ破壊力旺盛な台詞を吐いていた性別不明に、とうとう男が手をあげた。一発決まるのを見て、ようやくこれがチャンスだと知る。どんだけ怒っても手は上げちゃいけないよね。女かも知れないし。

「おい、大丈夫か?」

 とりあえず性別不明を気遣う振りをする。上げられた顔を見て、瞬間、思考が停止した。
 見開かれた目は零れ落ちそうなくらい大きい。マスカラでガチガチに固めた感じではない自然な長い睫毛。白い頬に赤く残る殴られた後が痛々しい。

「てめぇ!!そいつぁ俺の」

 皆まで言わせず、ついでに殴らせず、華麗に蹴りを咬ましてせせら笑う。腹を押さえて前屈みの男。止めとばかりに後ろから、

「お前とはもう終わりだ」

 低い声。舌打ちしてのろのろと背を向け男退場。俺は改めて性別不明と向かい合う。

「悪い。助かった」

 完全な男言葉に幻滅。よく見りゃ胸は微乳ではなく無乳だし、肩幅も上背も男平均以下女平均以上。詐欺だよなぁ全く。

「大したことしてねぇよ」

 男と分かった以上期待するものは何もない。軽く手を上げて背を向けてその場を去る。

 それでも苛立ちは、大部分が消化されていた。




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