あっけない程簡単に城は落ちた。領主館も崩壊した。は組全員が帰ってきた。
伊助も、帰ってきた。
「きりちゃん。ごめんね」
帰ってきた伊助は、火傷だらけのぼろぼろの身体でまずきり丸に抱きついた。
「いいよ。伊助は帰ってきたし」
「うん。きりちゃんがいてくれてよかった。ありがとう」
ぽんぽんとその背中を叩いて、きり丸は離れた。その背中を乱太郎が優しく擦る。妙なところで意地っ張りなきり丸が、乱太郎以外に涙を見せないことは皆知っている。
くすり笑って、伊助は庄左衛門に向き直った。
「僕がいない間、ちゃんとできた?」
何をかと聞こうとして、涙が溢れた。
「庄ちゃんって、ほんと僕がいないと駄目人間だよね」
「怖かった。伊助が死んだかもしれないって。私のせいで、伊助が死んでしまったかもしれないって。怖くて怖くて」
「最悪だよ庄ちゃん。僕はそんな庄ちゃんの弱味になったつもりはないよ。僕は庄ちゃんがいるから生きようと思えるし、捕まえられてからも頑張れたのに。庄ちゃんならやってくれるって。そう思って頑張ったのに」
言葉とは裏腹に顔は優しい。
「私は…何も出来なかった」
「知ってるよ。ほんとに駄目駄目なんだから」
伊助は手を伸ばして庄左衛門の頬に触れた。少し背伸びをして、額に額をぶつける。
「信用して。僕が庄ちゃんを信用してるみたいに。僕は死んだりなんかしない。庄ちゃんを置いては行かないよ。庄ちゃんもそうでしょう?僕を置いて行かないって知ってる。だから、ね」
「伊助…」
「大丈夫。庄ちゃんは独りじゃない。だから独りで抱え込むことはない。僕がいる。僕はここにいるよ」
ねぇ庄ちゃん。伊助の声は優しくて穏やか。
「辛かったよね。みんなが死ぬかもしれないって思ったときも、戦を起こす決断をしたときも。傍にいれなくてごめんね。でも、僕はずっと庄ちゃんのこと信じてるから。だから僕にもその辛さを分けて」
溢れる涙は止まらない。これまで抱えてきた色々な負の感情を全て肯定された気がして、庄左衛門は身体の力が抜けるのを感じた。
「庄ちゃん、庄ちゃん。大好きだよ。ずっと傍にいるよ」
「私も…」
しゃくりあげて、気息を整えて、
「伊助、帰ってきてくれて、ありがとう」
伊助はふんわりと、庄左衛門の一番好きな表情で笑った。
「ただいま。庄左衛門」
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