まだ詰めてはいませんが。と庄左衛門は半紙を差し出す。兵助はそれを無表情に読み、破り捨てた。

「な…」
「お前は馬鹿か。目的から取り違えてる」

 伊助を助け出すことを第一に掲げた策。それを真っ向から否定された。

「お前たちがなすべきなのは、文書の入手だろ。次に落城、その次が伊助だ」
「そんな…」
「忍に温情、容赦はない」

 伊助は、忍び込んだ城ではなく、その城に対立するある領主に囚われている。策は、領主屋敷に忍び込み、伊助を奪還するものとしてある。そうではない。と兵助は言う。

「策士が聞いて呆れる。三郎、お前どんな教育をしたんだ?」
「んなこと言ったって、お前にゃ敵わねぇよ」

 まぁいい。と兵助は筆を取った。勘右衛門は欠伸を噛み殺して他人事だ。

「何も助け出すな。と言ってる訳ではない。組みようでは、何もしなくとも伊助を助け出せる」

 さらり、半紙に書き付ける。

「文書が第一。撹乱がいるな。落城しかければいい加減だ」
「しかし、この人数では…」
「伊助は何も人形じゃないんだ。領主側の監視が緩めば一人で出てこれる」
「……先輩」
「ついでに落としてしまえばいい。どちらも等分に。そしたら平和になるだろう」

 庄左衛門は思う。怖いと思う。学園に策士と呼ばれた人間は多い。しかしこの人は、平然と凄まじい要求をする。

「つまり、領主側を煽って戦に持ち込めと。その騒ぎに乗じて文書を」
「少し考えたら分かるだろう」

 その戦で何人が死ぬだろう。もしくは罪のない人々も巻き込まれる。

「そこまで背負うのが策士だ。伊助を助けたいんだろう」

 その言葉に覚悟を決めた。筆を受け取り庄左衛門は、改めて机に向かった。




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