きり丸が顔を洗っては組長屋に戻ると、そこは惨状となっていた。伊助が見つかったことは一足先に三郎から聞かされている。何事かと思えば、庄左衛門が暴れているらしい。団蔵や金吾に押さえつけられながら、私が行くと叫ぶ声が聞こえる。きり丸は嘆息した。
「ちょいとどいて」
級友を掻き分け、庄左衛門の前に出る。そして何の容赦もなく頬を張った。
「きり丸…」
「いい加減にしやがれってんだ。てめぇ一人で行って何が出来んだよ。胸糞悪ぃ」
吐き棄てる。庄左衛門は呆然ときり丸を見詰めた。
「伊助を助け出したいのがお前一人だと思ったら大間違いだ。責任感じてんのもお前だけじゃねぇんだよ。思い上がんな。優等生面すんじゃねぇよ」
薄刃のような声に、やっと庄左衛門の目に光が戻る。それを見てきり丸はにやり笑った。
「それで大将?策はいつ出来上がるんだ?」
夜半、兵助が学園の門をくぐった。やはり揃いの長い棒を抱えている。そのまま迷うことなく庄左衛門の部屋へ向かった。
「庄左衛門」
「久々知先輩、お久し振りで―」
言い切る前に胸倉を掴まれる。同じ部屋にいた三郎と勘右衛門は、とっくに部屋の奥へ避難していた。
くぐもった音。右手が頬に命中する。
「これは、伊助を信じてやれなかった分」
冷静な声が逆に怖い。もう一度音がする。
「これは、責任逃れに腐った分」
そこでやっと手を離し、庄左衛門を解放する。後ろの二人は小声で会話を交わす。
「うわ…容赦ないね兵助」
「あれ、無茶苦茶痛いんだぞ」
「へぇ。俺喰らったことない」
「あいつ、お前には甘いからな。手首の返しが凄まじいから、後から来るんだ」
そんな二人に兵助が近寄る。ふにゃっと笑って勘右衛門が手を上げた。
「お手柄」
「そうでもないさ。今、雷蔵とハチが見張りについてる。そっちは?」
「動きはないぜ」
「そうか」
そこまで話して、頬を押さえ涙目の庄左衛門に向き直る。
「で、策は出来たのか?」
←→
foolish-title