教師は伊助の行方を探すことを禁じた。は組には見張りがつけられ、学園の外に出ることすら許されなかった。
皆はそれに不服を唱えたが、庄左衛門だけは違っていた。生きながらにして腐る。彼を形容するなら正にそうなるだろう。
部屋の中で、化粧を施す。伊助に化けながら思う。彼はどんな風に笑っただろう。どんな風に怒っただろう。鏡に表情を写してみても、それは結局紛い物でしかなく。堪えきれず乱暴に顔を擦る。そしてまた、喪失感を埋めるために化粧を施す。伊助のこと以外は何も考えられない。寝ることも食べることも忘れ、級友の心配すらも届かず、庄左衛門は鏡の前に座り続けた。
伊助がいなくなってから四日、学園に珍客が現れた。二人は何に使うものか長い棒を片手に、庄左衛門の部屋の前に立った。
「腐ってんなぁ」
堪えきれない。と勘右衛門は鼻を摘まむ。それを見て三郎はにやりと笑った。
「腐り方まで教えたつもりはないんだが」
言葉を合図に、二人は部屋の戸を打ち破った。
驚きに声が出ない庄左衛門。三郎は笑いかけ、勘右衛門は棒を構えて突撃した。
「ちょっせんぱ…」
卒業してからどれだけ修羅の道を歩んだか。熾烈を極める攻撃は、優秀な庄左衛門でも捌くことが難しく、ついには押し倒された。眉間すれすれで棒は止まった。
「弱くなったね庄左衛門」
勘右衛門が言った。
「先輩が、強くなっただけですよ」
「弱くなったね」
勘右衛門は繰り返した。苛立ちを見せる庄左衛門に、弱いのは心。と言った。
「昔はもっと冷静で真っ直ぐだったのに」
不意に勘右衛門は庄左衛門の上から退いた。興醒めだ。とさもつまらなさそうに言った。変わって三郎が言う。
「守りたいものが出来たら弱くなるなど三流だ。私はそんなふうに育てた覚えはないが?実際、守りたいものが出来た伊助は、実に強かったと聞くぞ」
その言葉に、庄左衛門は目を反らす。
「そうして腐るのは構わんが。伊助が見付かったときにお前は顔向けが出来るのか?」
項垂れた。胸の中は葛藤で溢れ、そんな後輩を二人は柔らかく見守った。
←→
foolish-title