敵忍の追求は、まだ生徒の身には少々重い。予め仕掛けてあった絡繰をいくら作動させても、次から次へと追ってくる。
 ちらり、伊助の前を行くきり丸が視線をやった。硬い冷たい視線だった。

「きりちゃん」
「…そうだな」
「いけそう?」
「任せろ」

 束の間安堵する。冷静で合理的なきり丸でなければ、こうはいかない。
 懐から出した火種を、導火線に落とす。瞬く間に燃え広がる火は、きり丸と伊助を遮断した。

 業火もかくやと燃え盛る火に、さしもの忍らも足を留めた。

「後悔するがいい。僕が殿であったことを。追い詰めてしまったことを」

 逃げる中には確かに思った相手がいる。だから踏み止まれる。

「この二郭伊助。命尽きようともこの先には通さぬ」

 熱風に深緑の衣がはためいた。




 集合場所で待っていた土井先生は、青い顔を少ししかめた。

「どうにか逃げおおせたか。では、出席を―」
「待ってください」

 遮ったのはきり丸。感情の籠らぬ声が続ける。

「出席を取る必要はありません。足りないのは伊助。それだけです」

 先生は何とも悲痛な顔をした。言葉が出ない薄ら開いた唇が白い。
 がっと、きり丸の胸倉が掴まれた。

「何だよ庄左衛門」
「…見殺しに…したのか」
「放せよ。見捨てただけだ」
「伊助を…伊助を見捨てたのか!!」
「しゃあないだろ。全員を逃がすためには必要だった」
「お前はっ!!」

 殴りかかろうとした庄左衛門と、殴られようとしたきり丸の間に土井先生が入る。慌てて駆け寄った乱太郎が、きり丸の硬く握り締められ震える手を、そっと撫でた。

 一人を欠いたまま、は組は学園へ帰った。




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