切っ掛けは些細なことだった。けれども薄氷を踏むような策は、その切っ掛けに耐えられなかった。
六年は組全十一名。落城は愚か狙いとしていた文書の入手すら叶わず、ただ頭の下へ集まり、退避を考える。頭の表情は暗い。退避が困難であること。そして自らの策が露呈した甘さを悔やんでいることを如実に示す。
「庄ちゃん?」
普段は穏やかな伊助の声さえも切迫する危機を滲ませる。
「退避は予定通りでいいの?」
暗い顔をやっとこさもたげた庄左衛門は力なく頷いた。
「ああ、頼む。しかし伊助。殿は私が務めるよ。責任を、取らせてくれ」
いつになく弱気な発言に何を思うたか、伊助は庄左衛門の肩を掴み、揺さぶった。
「馬鹿を言うんじゃない庄左衛門!!殿は僕の役目だ!!責任を取りたいなら最後まで頭であり続けろ!!」
頬を張られたかのように、庄左衛門はびくり目を見張った。何より名前で呼ばれたのは久し振りだった。
伊助は、そんな庄左衛門を尻目に指示を飛ばす。先陣団蔵、殿伊助の隊列が組まれる。
こうして十一人は、ただ逃げるためだけに地を蹴った。
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