「これからどうする」

 人に狐は尋ねる。ぐったりと寝そべった人はひらひらと手を振った。

「お前はどうしたい?」
「お前と生きたい。もう離れるのは御免だ」
「だよなぁ」

 俺も御免だ。やっとこさ身体を起こした人は、狐の隣にそろそろ腰を降ろして言った。

「なぁ、お前も学園に来ないか?」
「ん?」
「生きるには困らない」
「そうだな。お前と一緒なら何でもいい」
「お前と一緒なら生きていると思える」
「違いない。しかしどうやって紛れるか」
「俺が殺しちまったあれに化ければいい。あんな下衆じゃ可哀想だが簡単だ」
「成程な。ならばとっとと喰ろうてしまおう」

 血は固まり、苦悶の表情を浮かべる屍の腹を割き、臓腑を引き摺り出す。肝を半分齧って人に差し出せば、少々歯を立て吐き出した。その様が何とも懐かしく、また愛おしい。

「不味い」
「同属喰いは禁忌と聞くが?」
「禁忌なんかとっくだ」

 笑い合って食事に専念する。その傍らで人は問うた。

「狐、名は無いのか」
「私に名を付けるのはお前だと思っていたが、それも叶わず引き離されたからな。お前は名を貰えたのか?」
「あぁ。兵助と付けられた」
「兵助」
「申し訳ないが、卒業まで名は待て。この下衆の名で呼ばねばならん」
「いいさ。それでも初めての名だ。何と言う」
「鉢屋三郎」
「では、私は今から三郎だ。そういうことだろう、兵助」
「そういうことだな。三郎」

 それから二人は夜を明かし、明けて学園へ向かった。化けた狐に気付く者はなく、鉢屋三郎は人の暮らしというものを見た。不自由はないが不自由だ。それでも慣れれば楽しむ術を覚え、級友も新しくし、また獣の術を持って天才の名をほしいままにした。そんなものはいらなかったが、しおらしく優等生なんぞを演じている兵助に釣り合うためだ。顔は早々に下衆ではなく人のよい級友のものに変えた。そうして、皆の知っている鉢屋三郎という男が出来上がった。




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テーマ「人外ファンタジー」
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