あれから幾年が過ぎたか。狐は大きくなった。妖狐として一人前になった。化けるも殺すも喰らうも日常。楽しんですらいた。化かして喰らうのが楽しかった。しかし、どれほど楽しんでも悲しみは消えぬ。思わぬ日はなかった。我が愛し子は何処へ行った。我が撫でし子は何処へ行ったと。町やら村やらを転々としながら、日々思った。それでも探しはしなかった。見付からぬと思っていた。
 その日の寝倉は朽ちた神社で、否応に記憶を呼び覚ます。さっさと寝てしまおうと、狐は身体を丸めた。しかし眠りは訪れなかった。代わりに二つ人影が現れた。何を思ってこんな夕刻にこんな所へ。まあいいさ。喰らってやろうと身を起こす。二人は何やら争っている。やがて大きな方の影が小さな方の影を押し倒した。そこで初めて小さな方の顔が見えた。

「っ!!」

 見紛う筈がない。思い恋焦がれた人の顔。育ってはいるが間違いない。どれだけ望んだか。幻覚なのかとすら思う。
 硬直する狐に気付かず、大きな影は小さな影の顔を殴る。両手を押さえ付け、力任せに衣服を破る。小さな影、人は暴れていたが徐々に動きが大人しくなった。比例して、大きな瞳が獣じみてゆく。或いは思うところがあったのかもしれない。昔々、狐と共にただ生きることだけを願って、道も何もかもかなぐり捨てて過ごした日々を。顔が迫る。接吻を強要するその顔を避け、人は首筋に喰らい付いた。そして、強い力に怯んだ影の腹に苦無を叩き込んだ。更に引き抜いた苦無を今度は胸へ。完全に事切れた影の下から這い出して、血塗れの己に舌打ちし、そこでやっと狐に気付いた。

「あ…」

 信じられないものを見たと、正にそんな顔で人は硬直する。
 暮れ泥む風景の中、二人はただそうして見詰め合った。




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