それは、酷く圧し掛かるかの様に晴れた日だった。狐は山へ向かい、人は神社の境内にいた。

 女がやって来る。

 女は武家の嫁だった。しかし、子を孕むことが出来ず役立たずと舅姑に苦しめられて、とうとう社を巡るようになった。足を伸ばした名も知らぬ神社に女は手を合わせる。どうか子を授けてくれ。このままでは生きるのも辛いと、一心に神頼む。
 そこへ人が現れた。好奇心を抑えきれず出てきてしまった。人を見た女は思う。壊れかけた頭で思う。これは神様が私に授けてくれた子だと。これが私の子なのだと。思って女は人を抱え上げた。我が子なら、我が家へ連れて帰らねばならぬ。
 人は抵抗した。しかし女とはいえ大人であり、人は痩せ細って身体も小さかった。何より、思い込んだ女の力は強かった。人は叫んだ。狐に助けを求めて叫んだ。山まで届くことはない。分かっていても叫ばずにはいれなかった。叫んで叫んで、喉は擦り切れ涙も枯れた。それでも、遠ざかる神社を見据え狐を呼んだ。



 狐が帰ってみれば、夕暮れの中に人の姿は何処にもなかった。何処を探しても、いくら呼んでも帰って来ない。集めた喰い物が散らばった。狐は駆けた。駆けずり回って呼び叫んだ。喉が擦り切れ足に血が滲むまで。それでも、人は何処にもいなかった。狐は独りに戻ってしまった。
 独りで眠るのは本当に久しく、こんなに寒いものかと涙が溢れた。喰うものはなく腹まで鳴いた。翌朝、いつものように山へ向かい人の喰い物を探した。戻ってきても人はいない。己の喰うことを忘れて繰り返した。喰われることのない木の実が腐って、やっと気付いた。人は帰って来ないと。その余りに深い悲しみに、狐は神社を飛び出した。

 こうして二人は別たれた。




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