生きる為には喰わねばならぬ。二人の生活は喰うことを第一に始まった。人は何を好んで喰らうのか狐は知らぬ。そもそも好み云々言える状況にあらず、人は何でも口にした。木の実やら虫やら名も知らぬ獣の死肉やら、はてまた人の肉まで喰うた。しかしどうにも肉は口に合わぬらしく、よく腹を壊しては弱った。狐はそんな人を見て、なるべく山で喰い物を集めようと考える。人の足に山道は難く、いくら痩せ細っていようとも身軽さでは狐に及ばぬ。狐は人を神社に残して山へ向かう。自分が生きるためでなく人を生かすために喰い物を集める。
 そんな狐に人は心が痛む。己に何が出来るか自問自答する。誰かに自分の世話を焼いて貰うのは初めてで、何ともつかぬ心地に喘ぐ。その日もまた狐は山へ行ったっきり。そこへ、やはり棄てられたのか子供が一人現れた。人は考える。狐は自分のために喰い物を入手する。ならば自分は狐のために、喰い物を用意すればいい。
 子供の前に人は出る。不安げな子供の表情を前に、どうしたものかと暫し思案する。狐はいつもどうしていたか。真似るつもりで痩せた肩に手を置き、首に喰らい付いた。恐怖に固まる子供。いくら歯を立てようとも、獣と人では造りが違う。痛みに暴れ出す子供を押さえ、必死に歯を喰い込ませようとするが上手くいかない。手が頭を叩き、足が所構わず蹴り付けて、人は大きく動揺した。動揺して、子供をきつく突き飛ばした。呆気なく突き飛ばされた子供は、ささくれだらけの柱に頭を打ち付け動かなくなった。
 狐が帰ってみれば、まず人が抱き付いた。聞けば、子供を仕留めようとしたが上手くいかず怖い思いをしたと言う。震える背中を擦ってやりながら、狐は心が高揚するのを感じた。何も見返りを期待して人のために喰い物を集めていた訳ではない。二人で生き残ると決めたからこそ出来るのだ。しかし、人はそれを良しとはせず自分のために出来ることを必死でやろうとした。それが何より嬉しかった。

「ありがとう」

 その言葉にきょとんとした人は次いで破顔した。狐が喜んでいることを感じて喜んだ。それがどれだけ道を外れる行為なのか、人も狐も知らない。元より説いてくれる存在はなかったのだ。ただ、互いのためを思って行動することは、互いを喜ばせるということだけその行動原理に刻まれた。そうして二人は、互いの持ち寄ったものを喰らい、抱き合って眠った。腹は満ち足りなくとも、心が満ち足りた眠りだった。
 次の日、狐は山へ向かい、人は神社で小獣や子供を探した。互いのためを思っての日々はその次の日も、また次の日も続いた。時には上手く狩れずに人が泣き、山が荒れる日には狐がぐずる。けれどもそれすら愛おしい。毎日は過ぎて行く。やがて人は殺め方に習熟し、狐は山駆けが得意となった。毎日は過ぎて行った。
 続くと、思っていた




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