その日棄てられたのは、独りの男子だった。黒い髪に黒い目。肌は白く身体は小さく、食べでが無いことは一目瞭然。仔は少しばかし落胆し、人の子に化けて棄て子の前へ現れた。
 狐の耳に人の顔。男子はしかし驚くことなく懐から何かを取り出した。

「食べるか?」

 仔は子をじっと見詰めた。人と話すのは初めてだった。応えのない仔に子は気にした風もなく、それを少し齧った。

「俺が持ってる最後の情けらしい。中々旨いぞ。少なくとも、俺よりは旨い」
「俺にはお前の方が旨そうに見える」

 子は、止めて置け。とさも詰まらなさそうに言った。

「何故だ。俺は喰らわねば生きられぬ」
「それでは俺が死んでしまう。俺は生きると決めたんだ」
「それが自然で世界と言うものだ」
「吹かすな狐。だからと言って喰われてやる程の情けは持たぬ。俺を喰おうとするなら、俺は抵抗する。互いに傷付くのは賢くない」

 歳の割りに聡い子は、仔の目を見詰めて無表情。今迄の棄て子とは異なるぎらぎらとした目。仔は、その目に呑まれた。これまでの孤独も手伝い、その子の手を取った。

「狐。名はあるのか?」
「親の顔を覚える前に棄てられた」
「俺は名を貰えなかった」

 子は、仔を狐と呼ぶ。仔は倣って子を人と呼んだ。二人は出逢った。生きることを望み生かし合うために、出逢った。




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