その仔は共に生まれた他の兄弟よりも少々身体が小さかった。世は動乱が続き、人も獣も等しく飢えた。妖孤も所詮は獣である。育たぬ仔は要らぬとその仔は棄てられた。
 生きる術を持たぬ仔は、それでも本能の儘、生きようと喘いだ。地虫を喰らい腐肉を漁り、泥水を啜って生き延びた。いつ死んでもおかしくない。毒にあたるはしばしばだった。別な獣に手酷く追い出された。人に退治されそうにもなった。
 けれどもそうして二、三の冬を越し、妖孤の仔は少し大きくなった。知恵も付き、不完全ながら人に化けることもできるようになった。

 仔は、古く打ち捨てられた神社を寝倉にし、そこで暮らした。風雨が凌げ山が近い。人里からは距離があるので見つかることも殆どない。何より、その神社は子棄て処として使われていた。
 十にも満たぬ、五つあるかも分からぬ人の子が、親に連れられ置いて行かれる。腐肉に慣れた口に新鮮な幼子の肉は何れ程美味であったろう。偶のご馳走に仔は飛び上がって喜んだ。仕留め方にも習熟した。半人半獣で近付いて興味を引き、一気に喉笛を喰い千切る。否、千切ってはならぬ。溢れる血潮は命の水。一滴たりとも無駄には出来ぬ。

 こうして仔はその生を確実なものとした。ちょっとやそっとじゃ死にはせぬ。身体は小さくみすぼらしいが、独り生き延びたその胆力は伊達ではない。狐の仔は独り生きていた。
 そして四つ目の冬が近付く頃、仔にとって生涯忘れられぬであろう人の子に出逢った。




fox-title
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -