泣いたせいか私の言葉に当てられたのか、真っ赤な顔で兵助は俯いた。えらく可愛らしい仕草に少しからかってやりたくなるが、ぐっと堪える。
「兵助。返事は?」
「……」
「久々知兵助くん?」
「…少し」
考えさせてくれと、兵助は続けた。そのままうやむやにしてしまう算段が手に取るように分かったので、笑顔で首を振る。
「私は今、返事が聞きたい」
「そんな…」
「それとも兵助は、私のことが嫌いか?」
「嫌いじゃない…が」
「が?」
「ちょっと待て。そもそもこういった人生に大きく関わるようなことをそう簡単に決められるわけがないだろう」
「お前の四角四面な議論には付き合ってやらない。私は今ここでのお前の気持ちが知りたいんだ。後に心変わりすることがあれば、恨み言はその時聞いてやる」
赤い顔。こちらをしばらく睨み付けていたものの、また項垂れて、小さく小さく言葉を吐く。
「……ょ」
「聞こえない」
「だから…行くよ。お前の里に」
兵助はやっと顔を上げて、はっきりと言い放った。
「卒業したらお前の里に行って、お前と共に忍になる」
やっと聞けた確かな言葉。やはり存外愛されているのかも知れぬと浮わついた思考で、目の前の兵助を抱き寄せる。
「ありがとう」
耳元で囁いてついでに口付けを一つ落とせば、全く持って可愛らしくない拳が脇腹に突き刺さった。
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