三郎は大層怒っているようだったが、仕方がないと言いたい。自分でもまさか硝煙蔵の鍵で我に返るとは思わなかった。何とも、身に染み付いた責任は重いものだと呆れ半分に考えた。
 勢いに任せて全てを三郎に話してしまった。だからといって気が晴れる訳でもなく、むしろ恥ずかしくて堪らない。話すつもりはなかったのに。涙を流しながらの独白は、さぞかし滑稽だったに違いない。それとも迷惑だろうか?立ち入りたくはないであろうお家事情に、話だけとはいえ付き合わされるのだから。ちらり、何事か考え込む三郎に目をやって、今度こそ硝煙蔵の鍵をかける。外は大分暗くなっていた。

「兵助」

 考え込んだ顔のまま、三郎は口を開いた。目が、こちらではなくもっと遠くを見つめている。

「お前が、もしお前が望むならばの話だが。うちの里に来ないか?」
「里?」
「忍の里だ。名はないが中々外では高い評価を受けているらしい。とは言っても、私はまだ仕事を受けたことはないんだが。
 私はそこの拾われっ子でな。学園卒業後に十年の奉役が課されている。だから、お前のやりたいことが見つかるまで、私と一緒に働かないか?」

 何だそれ。声は掠れて消えた。もう一度、何だそれと、小さく小さく呟いた。

「正直、汚い仕事ばかりだろうが、兵助は外様扱いになるから仕事も選べる。お前がやりたくないことはしなくていい。と言うか私がさせないから。別に十年待つ必要もない。お前のやりたいことが見つかるまでの話だ。どうだ?」
「何か…」
「ん?」
「婚姻の申し込みのようだな」

 三郎が酷く真面目な調子で、俺を慮って言うものだから居たたまれなくて、そう茶化してみる。しかし、重ねて真面目に、今度ははっきりとこちらを見据えて三郎は言った。

「私はそのつもりだ」


「男同士は夫婦になれんと知っているか?」
「お前…私を馬鹿にしているだろう」
「知っているならなぜそんなことを言う」
「私は将来、お前と共に生きたいと思っている。お前と苦楽を共にしたい。私はお前が思っている以上にお前に惚れているんだ。
 だからこれは、お前に対する将来の提案であるのと同時に、お前への求婚だ。

 なぁ兵助。私と一緒に、今生を生きてはくれまいか?」




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