ひくっと息を飲み、その瞬間だけ泣き声が止んだ。崩折れるように抱き付き縋り付いた瞬間だけ。頤をこちらの右肩に乗せ、兵助はまた泣き出す。早くも肩は湿ってゆく。
「兵助…兵助…」
折れよとばかりに回した腕に力を込めても、どんなにその名前を呼ぼうともただ泣くばかり。苦し紛れにしゃくり上げる、途切れ途切れの呼吸が一層胸に突き刺さる。
「兵助…」
「だっ…だって…」
どうしてと泣く。何がどうしてなのか?訊ねたところで応えはない。どうしてどうして。血を吐くように苦し気に。
顔を見る勇気はなかった。口付けでもすれば何か変わったかもしれない。けれどもそんな勇気はなかった。或いは甘く名前を呼べば、その頬を張れば何か変わっただろうか?私にそんな勇気はなかったのだ。
泣きじゃくる兵助に縋り付き、その名前を呟くのがやっとだった。
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