「ちょっと鉢屋。兵助がいないんだけど」
喧嘩腰のそれは尾浜のもの。兵助と恋仲になった日からずっとそうだ。見た目に似合わず粘着質な男だ。
「兵助なら知らないぞ。今日は委員会と聞いているが」
「硝煙蔵の前で少し前に会ったけど、どっか行っちゃったみたいで。少し様子がおかしかったからさ」
雷蔵が目尻を下げて言う。生来大雑把な人間だが、心の機微にはそれなりに聡い雷蔵の言うことだ。様子がおかしかったのは本当だろう。
重ねて数日前の、どうにも放心したような兵助を思い出した。あの後は普通に振る舞っていたものの、何かに心奪われているのは確かだった。
「仕方ない。ちょっと探して来るよ。帰ってきたら教えてくれ」
「うん。一足先にハチが長屋覗きに行ってるから、帰ってきてたりしたらすぐ言いに行くよ」
雷蔵に後を任せて取り敢えず硝煙蔵へ向かう。周りをくるりと一周するがいない。中を覗いてもいない。しかし鍵がかかっていないとはどういうことだ?兵助に何かあったのだろうか。
自然と早まる足を押さえ、人の隠れられそうなところを探す。校内は入り組んでいるためそんな場所は無数にある。いい加減竹谷でも呼んで二人がかりで探そうかと思った。
思った時に見つけた。
兵助は古い崩れかけた土塀の影にうずくまっていた。顔を立てた膝に埋め、ギュッと身に引き付けて小さく小さく。無事そうでほっとしたものの、具合でも悪いのかとまた心配になる。
「兵助?大丈夫か」
驚いたのか勢いよく上げられた顔に、思わず息を飲んだ。
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