1.ご褒美のキス

 もう一週間になる。兵助は任務で遠方まで行ってしまった。帰るのは明日だったか。これまでほぼ毎日のように抱き締めて組み敷いていた愛しい恋人の不在は、思いの外堪える。そうでなくても寂しがりやだって知ってるだろうが。馬鹿兵助め。何がちょっと行ってくるだ。お前のちょっとは長すぎる。耐え切れない。それにもう飽きた。お前の(私にしか見せない)痴態を思い出して一人で致すのには飽きた。あぁ、早く帰って来い兵助。そうしたら、私に放置プレイかましたお仕置きをきっちりしてやるから。くっそ、想像したらまたムラムラしてきた。早く帰ってこないかなぁ。明日とか本気で無理なんだけど。もういっそ校門で待っててやろうか。そうすればあいつも、私がどれだけお前を愛しく思っているか分かるだろう。よし決めた。今から校門で待っててやる。徹夜でも何でもしてやるさ。変態?好きに呼べばいい。それくらい私は兵助を愛しているんだ。ああ、一晩中寒い中校門前で待っていることが出来るくらい大好きなんだ。恋しいんだ。でも、流石に半纏は着て
いくけどな。寂しいのの次くらいに寒いのは苦手なんだ。半纏くらい許せ。それでも待っててやるんだろうが。馬鹿兵助。早く帰って来い。お前の温もりを私に確かめさせてくれ。
 半纏を着込んでいても、やはり外は寒かった。日の落ちた校門前でがたがた震えながら兵助を待つ私は、さぞかし滑稽に映るだろう。しかしそんなことを気にしている余裕はない。ただ兵助に会いたい。一刻も早く会いたい。それだけ。しかし本当に寒い。木戸の横に寄りかかってずるずるしゃがみこみ、膝を抱えて表面積を小さくする。寒気は思考を奪っていく。寒い。兵助に会いたい。早く、兵助の大好きな顔を見て、細い身体を抱き締めて、蕩けるような口付けをして、抱き合って温め合うんだ。早く帰ってこないかなぁ。早く明日にならないかなぁ。

「お前、何してんの?」

 とろとろと睡魔に襲われていた私に、冷たい声が降ってきた。見上げれば、ひたすらに思い描いていた兵助の顔。寒さのせいか鼻先が赤くなっていてまたそれが可愛い。って、そうじゃなくて。

「兵助?」
「俺以外の誰に見えるんだ?」
「何で?明日帰ってくるんじゃなかったのか?」
「ああ。もうその明日だ。日付変わってるだろ」
「何で?こんな時間に」

 疑問符で顔を一杯にしている私に、兵助は悪戯っぽく笑いかけた。

「誰かさんが寂しがって無茶してないかと思ってな。この分じゃ、どうやら当たりだったらしいが」

 ああくそ。見透かされてるのはムカつくが、その顔は反則だろう。もういっそこのままここに押し倒してしまいたいんだが。しかし最後の最後で理性(兵助に風邪引かせるわけにはいかない)が働いて、しっかと抱き付くに止めた。

「全く、お前は」
「ずっと待ってた」
「そうか」
「一週間は長かった」
「よしよし。よく頑張った」
「兵助」
「ったく、しょうがない」

 張り付いた私を無理やり引き剥がして、兵助は私の顔を見詰めて笑った。

「一週間よく頑張りました。ご褒美」

 一週間ぶりの口付けは、お互い長く外にいたためかとても冷たくて、けれども舌を差し入れる頃には熱く蕩けるようなものに変わった。

「もう、今日は休むんだよな」

 唇を離して、兵助のてらてら光る唇を眺めながら言う。

「先生に報告に行かなくちゃなんだが、そうさせる気はないんだろう?」
「勿論。休ませる気もねぇよ」

 溜息を吐いた兵助は、それでも私の手を取り、指を絡めてくれた。二人で寄り添って長屋に帰る。寒さが大分緩んだ気がするのは、きっと気のせいじゃない。



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