化学が壊滅的に苦手なくせに、獣医関係(つまり理系)に行きたいと言い出したのが間違いだった。何かもう、ほんとにそっから間違えたよ。何だよ今日の罰ゲーム。1組の誰かに告白して、返事貰って来いとか難易度高すぎだろう。1組の連中って、総じて(とはいっても勘と兵助しか知らないが)頭いいくせに世間ずれしてないって言うか、常識がないから何言われるのか分かったもんじゃない。大体、小テストの結果が一番悪かったら罰ゲームって、お前ら俺を勝たせるつもり一切ねぇだろ。

「聞いてるか?」

 振り返って、後ろを見学と監視のため付いてきていた雷蔵と三郎に声を掛ける。が、ニヤニヤと笑って逝って来いとばかりに手を振るだけだった。くっそムカつく。
 ガラリ。教室の戸を開ける。ターゲットは兵助。きっと華麗に振ってくれるだろうし、後腐れなさそうだから。しかし、室内を見渡しても艶やかな癖っ毛は見付からない。代わりに勘右衛門が詰まらなさそうにロリポップ咥えてマンガをめくっていた。

「勘、兵助は?」
「あーハチだ。兵助はね、例の年上後輩の補習に付き合わされてる。なんか用だった?」
「いや…」

 教室入り口をちらりと見ると、二人が笑いながらハンドサインを送っていた。解読するに、勘右衛門に告白しろ。冗談じゃねぇ。しかし、罰ゲーム放棄すると三日間二人に昼飯奢らなきゃなんねぇことになる。恥より金。高校生なんて万年金欠ですから。深呼吸。吸って、吐いて、吸って、吐いて。

「何してんの?」

 勘右衛門は咥えたロリポップの棒を指先で回しながら言った。唇が飴でてらてらと光っている。それは何か?新手のグロスか?突っ込みたくなったがそれどころじゃない。あぁ、それなりに気心の知れた仲なのに、何でこんなに緊張するんだ。

「勘右衛門」
「何ですか。改まらないで下さい」
「えっと、俺と…その……」
「もじもじしないで下さい。ハチ何か変だよ」


「付き合ってください!!」


 魂が、抜ける思いだ。誰かに告白したのなんて初めてだ。それが男で罰ゲームだということが哀しい。あぁ、俺の青春よ。何故こんな試練を与えたもうた。

「はあ?」

 たっぷり三秒間はあった沈黙の後、勘右衛門の第一声はそれだった。しかも、"あ"にアクセントが置かれている。やばい。1組の共通点もう一つあったんだ。二人揃って、沸点低い。更に、マジ切れさせると命はない。

「あっ…いやその」
「何それ」
「えーと」

 逃げたい。マジで逃げ出したい。家に帰って布団引っ被って篭りたい。マジ怖い。誰か助けて。もう恥とかプライドとかどうでもいいから誰か助けて。

「いいよ」

 頭を抱えてうずくまりたい、膝がもう砕けますという瞬間に勘右衛門が言った。はい?今何と?

「付き合ってあげる。ハチのこと嫌いじゃないし、ね」

 そう言ってがたりと席を立つ。くたくたのバッグ(キャラクターもののマスコット多数付き)を少し乱暴な動作で肩にかけ、俺の横をすり抜けようとして、

「今日は兵助と帰るけど、明日からよろしくね」

 唇に、硬質な生温いもの。勘右衛門が今まで咥えていたロリポップが押し付けられた。

「じゃ。また明日」

 口に放り込んだ件のロリポップをがりがり噛み砕きながら、勘右衛門が退室した。いやもう、何が起こっているのかさっぱりなんだけど、これ、俺どうしたらいいの?ありえないくらい情けない顔をしていたのだろう。近寄ってきた三郎どころか雷蔵までが大爆笑した。怒鳴り付けようとして、唇が粘ついていることに気付く。てゆうか、あれはないだろ。何あれ?間接キスなの?勘右衛門と?

 舐め取った粘つきは、やけに酸味の強い苺味だった。




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テーマ「人外ファンタジー」
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