「俺、気付いたんだ」
唐突に、食堂で兵助はそう言った。少々(本人は否定するが)天然の気がある兵助はこうして脈絡もなく話し出すことがある。こんな兵助に律儀に返答を返すのは一人しかいなくて。
「何にだ?」
ハチは身を乗り出していかにも興味がありますといった体で兵助に応えた。あーあ、そんな態度を取ると後が怖いことを知らないな。ピクリと隣で肩が動くのを感じた。
「豆腐に塩を付けるのも美味い」
見れば、兵助はとても丁寧にほんの少しの塩を豆腐に散らした。キラキラとした塩の結晶は豆腐の肌に馴染んで溶ける。綺麗だな。と思ってぼんやりと眺めてしまう。
「そうか、よかったな。そういや、兵助って塩に似てるよな」
そして、この鈍感男もまた頭の回線が常に混線状態なのか、突拍子もないことを言い出す。あ、隣に続いて斜め向かいで聞き耳が立てられた。
「どこが?」
「そうだな。常にそこにいるのに、決して表に出てこないところとか。そこにいるのが当たり前になってしまってるとことか。あと、必要不可欠なとことかかな。うーん、言葉にしてみると似てねぇな」
豪快に笑うハチの隣、ハチに聞こえないくらいの小声で会話が交わされる。
「勘右衛門?」
「…まだ、俺の天誅レベルには達してない」
不穏な会話に水ぶっ掛けてやろうかとしたとき、ハチが止めを刺した。
「あ、あと見た目が似てる。白くてキラキラしてて硬いのにすぅっと溶けるとこ」
みしり、三郎の握り締める箸がたわんだ。
「勘右衛門」
「天誅レベル超えた」
そんな級友には気にも留めず、兵助は豆腐を頬張って幸せそうに笑っていた。
おまけ
「ハチに塩に似てるって言われた」
「そうか」
「ほんとに似てるかな。三郎」
「似てる」
「どの辺が?」
「……儚く溶けてなくなるところ」
「…三郎が溶けるの許さないだろ。だからなくなったりしないよ」
――
タケメンは鈍感希望。
唯一冷静な傍観者雷蔵。
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