いつもの習慣で、ぶらりと生協脇の喫煙所に向かって、そこで三日ぶりに半同棲していた男を見つけた。行方が知れなくなり、優等生の癖に大学にも来なくなり。お陰でこちらもやる気が出ない有り様だ。
「久しぶり」
「たった三日だろ」
「まぁそうなんですけど。で、それは何なんでしょう兵助君」
問えば、ニヤッと笑って紫煙を吐く。足元には(三歩歩けば灰皿があるにも関わらず)丁寧に踏みににじった吸い殻が4、5本落ちていて、何となく、待たれていたんだろうかと淡い期待のようなものを感じた。
黒いガッチリしたブーツにベージュのカーゴとレザーのライダースというテンプレな格好。寄りかかるのは黒くてゴツいバイク。
「行く?」
軽く何でもないような問いかけ。あれ俺の質問はスルーですか。破れかぶれになって、半分ほど残ったラークを揉み消すと、これまたご丁寧に黒のジェットヘルを投げ付けて来た。
「どこ行くんだよ」
「どっか」
「あっそ」
重たいバイクは騒々しい音をたてて走り出した。
始め、それがまだ大学付近の込み入った界隈にいたころは、兵助も安全運転で、俺もぼんやりしていた。バイパスに出て、急にスピードを上げ出して初めてその事に思い当たる。
「兵助。お前免許持ってたっけ?」
「いや。でもお前持ってるじゃん」
「…ちょっと待て。前後左右が分かるように話してくれないか」
「上下はいいのか?」
「それはお前が下だからいい」
「お前が免許を持っている。俺はお前の運転を何度も見た。それで乗り方が分かった。どっか行きたくなった。はちからバイク借りた。以上」
バイクは騒々しく、怒鳴るような会話で、しかし着実にスピードは上がってゆく。なんだかもう、全てどうでもいいや。
「なぁ、キングクリムゾン歌いたい」
「お前が歌えるのEASY MONEYだけだろ。90km/hでこけたいなら構わないけど」
「言ってみただけ。でも、もうちょっと行ったら休憩入れて。俺さっき煙草吸い損なったから」
「気が向いたらな」
もしかするとこのまま帰らないかもしれない。そう思うと少し愉快になって、懐かしいくせに名の知らない洋楽を口ずさんだ。それはバイクの轟音に掻き消されて、兵助には届かなかった。
――
ロードムービーがやりたかった
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