さて

 今、俺の手元には一枚の写真がある。決して世には出せないであろう、センセーショナルな写真である。この写真を週刊紙に売ればいくらになるだろうか。猥雑なゴシップに飛び付き、コラムを書き殴ることを生業としてきた俺も、こればっかりは想像が出来ない。 傍目には男女の写真に見える。赤い着物の襟を粋に抜き、少しばかしほつれた髪を白塗の頬に貼り付かせ、こちらに流し目をくれる女。その左腕は膝に崩折れる男の首に回され、右手は男の頬に添えられている。挑発的な女の目と対照的に、男の目は何も映さない。硝子玉のように透明な目は茫洋と宙を眺めている。
 このぞっとするほどエロティックな、凄艶な、まざまざと淫交を思わせる写真は、とある歌舞伎役者のものだ。アングラを風靡したにも関わらず、批評家達の間では散々に扱き下ろされ、やがていずこともなく消えていった二人。この写真を撮った友人は、二人について俺以上に知っていたにも関わらず口を閉ざしている。俺もまた、多くを語ることは出来ない。
 それは夢のようであった。あの時代、アングラが一種のサブカルチャーとしての地位を築き始めたころ、彼らは、そして俺達は生きていた。



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