―電解セルを片付けておかないと

 ふと思った。最近は行為の最中に我に返ることが多い。今日もそうだ。電気を消した研究室のテーブルの上、覆い被さる先生の肩越しに大分暗くなった空を眺めて思う。どうでもいいことを考える頭とは裏腹に、唇は機械のように甘い声を漏らした。外に聞こえないくらい控え目で、しかし先生を煽るために耳元で。接合部からも控え目な水音が漏れる。ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ。肉をぶつけ合う音が聞こえないのは、場所を気にしているのではなくただ単に先生が優しいから。これでも初めは好きにしてくださいとお願いしたのだが、一度も聞き入れられないまま優しさに慣れてしまった。
 これが終わったら電解セルを片付けなくては。綺麗に色が別れなかったそれは失敗作。そもそも難溶性なのに、手詰まりによる焦燥感から無理やり電解にかけたのが間違いだった。焦っていた。何かしなければと。しかし薄ら緑に染まった液はセルの底に溶け残りを湛えて暗く見え、電極に何かが出ることもなかった。もうそれも終わり。四週間の電気を流され続けた彼らを葬らなくては。

「っ兵…助」

 切羽詰まった声に腰を揺らして応じる。男根をくわえ込んだそこに力を入れれば、一際抽送が激しくなってやがてびくびくと精を吐き出す感触があった。感触のみで、実際にぶちまけられたりはしていない。避妊具だなんて、同性同士では滑稽な名前だ。そもそも同性同士だなんて、なんて喜劇。
 生え際の辺りにうっすら汗を浮かべた先生は、困ったような悲しそうな、何とも形容しがたい顔で俺を見下ろしていた。そんな先生の顔は見たくなくて、すまない。だとか大丈夫か。とかそんな台詞も聞きたくなくて。
 (だって俺は大丈夫だ。これは俺が望んだ関係だ)
 首に回した腕に力を込めて上体を起こし、先生の唇をそっと塞いだ。



 部屋を出る。薄暗い廊下は夕飯時のためか誰もおらず、学生控え室からまばらに光が漏れるだけであった。簡単に拭っただけの身体で後輩と顔を合わせるのは気が引けて、荷物を控え室に残したまま足早に階段へ向かった。踊り場から振り返ると、先生の研究室にももう、灯りがともされていた。



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