・乱+雷+鉢でほんのり怖い話
・乱太郎と雷蔵が叔父甥関係の現パロ
・人間関係どろどろを匂わせます



 私がまだ中学生で、雷蔵叔父さんの家に泊まりに行ったときの話です。

 叔父さんと言っても若く、当時大学生でした。雷蔵さんは、三郎さんという人と同居していました。三郎さんは皮肉げな話し方をする人で、それをたしなめる雷蔵さんに不敵な(変な表現ですがまさしくそうとしか言い様のない)笑みを向けるのがとても印象的でした。
 数日間の滞在はとても楽しく、宿題を手伝ってもらったり、様々な場所へ連れていってもらったりと充実していました。雷蔵さんと三郎さんは、私の目から見てもとても仲睦まじげで、素敵な信頼関係を築いているようでした。
 ですが、滞在中に一つだけ、何と言っていいものやらとても不思議で、つい思い出しては考えてしまう出来事に遭遇しました。

 それは滞在最終日の夜の夕食時でした。雷蔵さんに教わって二人で三郎さんの好物を作ったのです。それが何だったかは、何故か全然覚えていないのですが、とてもいい出来だと頭を撫でられたのは覚えています。和やかに会話をしながらその料理を食べていると、ふと三郎さんが眉をひそめました。口をもごもごとさせ、何か唇の辺りを摘まむ仕草をします。すわ何か入ってしまったかと腰を浮かせかけたそのとき、つうっとそれが三郎さんの口から引っ張り出されました。


 それは艶やかな長い黒髪でした


 私も雷蔵さんも、髪の色は薄くそこまで長くないです。三郎さんも同様です。私は本当にびっくりして、けれども、『あぁ。凄く綺麗な髪だ』という何とも場違いなことを考えていました。それくらい、遠目にも蛍光灯の明かりを反射して輝く綺麗な髪でした。

『いつものことだよ』

 呆然とする私に、小さな声で雷蔵さんが言いました。そして更に声をひそめ、聞こえるか聞こえないかくらいのほとんど囁き声で言いました。

『奴は罪な男だから。ね』

 そのとき、三郎さんは雷蔵さんの声も耳に入らない様子で、じっと己の口から出てきた黒髪を眺めていました。表情は、今まで見たことのない、何とも悲しげなものでした。

 以上が私の体験した不思議な出来事です。あれから歳を重ねるごとに、雷蔵さんとは疎遠になってゆき、当時の雷蔵さんと同い年になった今は、季節の挨拶をやり取りする程度です。
 しかし、この歳になっても、あの出来事の意味、二人の関係や黒髪の主と三郎さんの間に何があったのかなど、分からないことばかりです。ただ、どうしてもあの三郎さんの、本当にこれ以上ないくらい悲しげな表情が目に焼き付いて…

 私は今でも、三郎さんと黒髪の主、それぞれの幸せを願わずにはいられないのです。

 私の話は以上です。



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