鉢屋三郎について知っていること。変装名人で、人をからかったりふざけたりするのが大好きで、あとは…?つらつらと思い返してみて、そこら辺の後輩たちが知っている内容と自分が知っている内容がそう変わらないことに気付き、呆然…とまではいかないが少々腑に落ちない思いだ。一応友人のはずだが。あぁでも…
 これが例えば雷蔵なら、親友として三郎の様々な悩みを共有しているのだろう。例えば勘右衛門なら、同じ委員会の仲間として、三郎がどう人と接するのかを知っているのだろう。八左ヱ門なら、同級かつ悪友として、三郎の悪戯の多くを楽しんでいるのだろう。そんな皆に対して、俺はそう接点があるわけではなく、ましてや二人きりになることもほとんどなく、三郎のことを知らない。いや、知ろうともしなかった。

「なぁ三郎」
「何だ兵助」
「俺、お前のことを全く知らないことに気付いた」
「わざわざ報告ありがとう」

 上衣を脱いで腹掛け一枚で床に寝っ転がった三郎は、団扇を握った左手をひらひらさせて返事をした。こちらも同じ格好だが、本を読むためにうつ伏せている。だから三郎の頭部、柔らかいかもじに覆われた緩やかな球体を存分に眺めることが出来た。本は、何故だか集中力が続かず脇に退けてだいぶ経つ。

「三郎と二人っきりになることとかまずないからな」
「二人きりになったところで片や読書。片や昼寝だしな」

 そう。昨日の気まずさも乗り越えてしまえば何てことはなく、お互いに好き勝手しようと改めて決め、この思い思いな姿なのだ。

「あれ、でも昼寝って言うわりには、お前起きてるな」

 それは何の気なしに発した台詞だったのだが、三郎は何故か少しばかしためらいを見せ、何かを口の中で呟いてから

「読書って言ってるわりに本読んでねぇ奴に言われたくない」

と言った。三郎の言うことはもっともである。しかしそれ以上に、今は目の前のこの男、三郎に興味があるのだ。

「俺は今、お前に興味があるんだよ」

 だからそれをそのまま言葉に出したのだが、またしても三郎はもごもご口を動かした後、小さく言った。

「なら、雷蔵たちに聞けば?」

 とてもぶっきらぼうな言い種で、それはそれでちょっとムッとしたが、それ以上に居心地の悪さが沸き立つようだった。口をつぐんで今日はもう声を掛けまいと決めてから、その居心地の悪さが、いわゆる“傷付いた”と表現されるものであると気付き、今度こそ呆然とした。



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