<結果>
 雷蔵…驚く
 八左ヱ門…テンパる
 勘右衛門…怨む

 反応は予想通りながらも面白く、中々に見物であった。このくそ(失礼)暑い中、よい気晴らしになっただけでもこの策の価値はあったと言うものだ。そしてそんな友人たちの、心地好い困惑と悪意に満ちた視線を浴びながら言葉少なに(ボロを出すわけにはいかないだろう)朝食を済ませ、さっさと兵助の腕を引いて食堂を出た。

  恋人同士の甘い夏

 何という馬鹿馬鹿しい傑作だろう。あまりに突拍子がなさ過ぎて誰も彼も(とは言ってもたった三人)疑うことを忘れたようだった。結構結構。これで少なくとも二週間くらいは、穏やかにのんべんだらりと過ごせる日々が手に入ったのだ。
 そしてまた、この策の相方が兵助というのが当たりだった。いや、他に誰もいなかったのが事実だが。とにかく静か。基本豆腐にことが絡まない限りうるさくなく煩わされることもない。関連して、こちらへの興味が薄い。お互い自堕落に過ごすと決めたのだから、過干渉はもっての他だ。それを一から十まで説明せずとも察してくれるところもいい。そして何より、夏に弱く辛さを分かち合えるなんて、素晴らしいじゃないか。
 行き着いた兵助の部屋に遠慮なく上がり込む。愛しい恋人(偽)様はちらりと何か言いたげな目をしたものの、その気力もないのか黙って座り込んだ。

「…」
「……」

 お互いに、無言で見詰め合う。体力の半分ほどを朝食の摂取に消費してしまったがために、いまいち何をどうしていいのか分からないのだ。そういえば昔雷蔵が言っていた。『お前は緊張するとのべつまくなしに喋り倒すよね』どうやらそれは、声に出ない部分でも同じらしい。

「………」
「………」

 そう、どうやら俺は緊張しているらしい。軽口の一つも叩けない、体力のなさを言い訳にしていたが言うべき言葉が見つからない、そんな状況に陥っていた。全く、前言撤回だ。こいつと二人っきりがこんなに気まずいものとは思わなかった。計算違いも甚だしい。一体どうすればよいのやら。
 見詰め合ったまま、ただ蝉の声だけが耳の中に反響して、私はすっかり気まずさの原因追求を失念していた。



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