謁見の間。兵士にたかられ縛り上げられる青年。

「どうしてだ!!三郎!!」

 絶叫に、王座に座る三郎は笑む。

「何故こんなことになった!!」

 三郎は答えない。ただ、青年を眺める。

「三郎!!お前は…!!」

 王に害を加える者として、青年剣士は捕らえられた。僕たちの目の前で、剣を振るう腕すらもう動かない。あれは、三郎の求めた青年ではなかったか。双胎である自分にも、彼が何を考えているのか分からない。青年の叫びだけが、響く。



「三郎!!!」



 一際大きな怒声と共に、
 ただ一面の、光。


「三郎…あれは…」
「よく見ておいで雷蔵」

 抑えきれない歓喜に満ちた三郎の声。

「真に世界を転換するものが、目覚める」



 風が、吹いた。



 軛を逃れた人間青年の背には、大きな翼があった。

「あれは、何故…」

 もはや消え去りし種族であったはずだ。

「賢鷹族…!!」

 風を抱いて、青年は空を滑る。
 その剣が、三郎を襲った。




 剣を交わす。高々と鳴る剣戟の音が言葉に代わり語る。何も要らない。この瞬間さえあればそれで、この決して短いとは言えない喪失と、裏切りにも似た苦しみを埋めることが出来る。剣は正確に思いを汲み取り、相手の剣へぶつけた。相手の剣は爆発的なその感情を甘んじて受け入れ、対して自らの思いを解放することはなかった。募るもどかしさ。圧倒的な怒り。その怒りがどこから来るのか、気を留める余裕はなかった。
 羽根を広げたのは一回きり。この限られた空間で飛び回れば確実に刃が羽根を切り裂くだろう。己の足で駆け、跳ね、三郎を追い求める。共に鍛練を積んだ日々が思い出され、口の中に苦いものが込み上げる。それを噛み締めて、機を探った。三郎の剣筋、組み立てる哲学を読み、呼吸すら危うい交錯を何度となく繰り返しながら、ひたすらに、待った。

 一刹那に満たない。

 受け流すため取った体勢がほんの僅か右に傾いだところに素早く足払いをかけ、崩れる上から剣を突き下ろした。無防備な喉笛目掛けて、切っ先が落ちた。




 青年が三郎に襲いかかった。呆けていた頭は一瞬にして氷を突っ込まれたように覚醒。援護のため演算を組もうとしたところで、殺気が襲った。振り向けば銀毛族の若い男が一人、苛烈に鍛え上げられたのであろう大剣をひたとこちらに向けていた。

「邪魔をしてやるな」
「邪魔だなんて」

 三郎が死んでは困る。ただそれだけ。それこそ邪魔をするなら荒事も厭わないと式を現せば、男は口だけで笑った。

「柄に似合わず派手好きらしいな。王は死にやしないさ。それより、俺の懐疑に答えちゃくれないか?」
「懐疑…?」
「お前は見たところ王と双胎らしいが、一体何なんだ?」

 ぴしりと向けられた殺気とは裏腹に、男の声は呑気なものだった。何となく毒気を抜かれて緊張を解けば、男も合わせるように殺気を捨てた。

「僕は雷蔵。三郎と対をなす影さす王だ」
「影さす王とは何だ?」
「光さす王は幸福の王。栄光に浴する表側。影さす王は不幸の王。汚辱にまみれる裏側なのさ」
「決して表に出ない裏側ということか。それは何故存在する?」
「事物は全てにおいて正の面と負の面を持つ。片方だけでは存在し得ないんだ。どんな人だって、善い心と悪い心を持っているだろう?そういうことだよ」

 男はしばし考えていたようだが、やがて分からないな。と言った。

「事物全てに二つの側面があることは分かる。しかし、何故その二つをわざわざ分けなきゃならない?一つのものに二つの面があるならば、一つのものが二つの面を持てばいい。それを分けるせいで一つのものが一つしか表せず苦しむんじゃないのか?神は何故そのような在り方を望む?」
「それは王たる僕には答えられない。王が神に懐疑を表すことはできない」
「そりゃそうだ」

 神に直接訊くしかないか。男がぼやいたところで、やっと我に返った。三郎は?振り返れば、丁度剣戟の音が止んだところで。崩れる三郎と、雷光のような、

「さぶろ…」

 一閃が、落ちる。




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