洒落た招待状は紛うことなくの舞台演劇のものであった。しかも与えられた役は少女。その裏にある意図が読めず、苛立ち任せに舌打ちをする。
舞台演劇。王の嫁取り儀式。専属脚本家が毎回ディテールを変えるものの、大まかなストーリーはいつも同じだ。少女と暴漢、そして英雄。かつては王が最も信頼するものを配下として迎え入れ、また王の強さを知らしめるためのものであったが、幾代か前の王が最も愛する女性を舞台に上げたことより、婚約の儀式のようになってしまった。暴漢に襲われる少女を助け出す英雄。あろうことか三郎は、俺にその少女役を割り振って来たのだ。配下として迎え入れようというのか。それとも他に何かあるのか。どちらにせよ良い機会である。あの男と剣を交え語り合う、とても良い機会だ。
「動くな。無用の危害を与えるつもりはないんだ」
脚本にない台詞は耳元で囁かれた。灰銀色の髪の男は剣呑に目を細める。予定調和の舞台演劇は、即興の様相に。
「お前、まさか…」
反逆児かと問う言葉は飲み込まれた。銀毛族の男はそれでもこちらの意図を正しく読み取ったか、小さく言葉を重ねる。
「お前も人間なら分かるだろ。この国の階級意識に、それを植え付けた神に、俺は懐疑を唱える。神の認めし王を絶つことは、その一歩だ」
男の言葉は痛いほど身に染みて理解できた。銀毛族は、かつては上級種族であったものの、その誇り高きが禍し神に楯突いたがために、下級種族へと落とされた。同情の一方で、息が詰まるような錯覚。この男は、王を
「三郎を、切るつもりか?」
ぞっとするほど低い声が漏れた。
苛烈な踏み込みに剣を掲げて応じる。甲高い剣戟の音に交えて観客席には届かぬ会話。
「何故脚本に従わなかった!!」
「あいつらはお前を殺そうとしていたんだぞ!!」
「だからといって暴漢を倒してしまう少女がいるか!!私が奴らに勝てると何故信じられない」
「どうしてそう叱るんだ!!お前を殺そうとするものを蹴散らして何が悪い?」
「脚本に従えと言っているんだ。お前が従わなかったせいで、こんな無用の即興劇を始めなきゃならんだろうが!!」
言葉を紡ぐ間にも身体は止まらない。撃ち、引き、跳ね、舞う。差し伸べるように剣を交えた瞬間、ぼそりと三郎が言った。
「お前を守る最後の術であったのに」
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