・紫村君のくく綾デートのキャプションに沸騰してやらかした
・♀鉢→♀くく→♀綾
・三郎兵助共に女子高生
・♀くく←♀鉢にしか見えないが♀鉢→♀くくと言い張る





 傍若無人と鳴らされる玄関チャイムの無機質な音に、やはり来たかと雑誌から顔を上げた。部屋から出る前に姿見で全身をチェックする。ミニ丈のプリーツスカートにニーハイ。シンプルなVネックのカットソー。薄い色のリップを塗り直す間にも、チャイムはけたたましく鳴る。今日はえらく余裕がないなと短い廊下を歩きながら思った。
 扉を開ければ、予想通り兵助がいた。委員会が終わってからそのまま来たのであろう、重たそうな鞄(置き勉なんて思い付かないのだろう)に制服姿で、私を押し退けて上がり込んだ。勝手知ったる何とやら。いささか乱暴な足取りで自室に入る兵助を見送って台所へ向かった。ペットボトルのお茶にコップを一つ。あとは自分用にアイスコーヒー。お盆を抱えて部屋に戻れば、定位置の赤い座布団の上でぺたりと座った兵助が俯いていた。

「今日は、何?」

 お盆をテーブルに乗せながら水を向ける。普段ならここで立て板に水のように話し出し、自分は雑誌や漫画を捲りながら聞き流すのだが、今日は何故かひたすら無言であった。
 兵助がうちに来るのは綾部のことを吐き出すためだ。思い込んだら一直線で少々オタクじみたところのある兵助は、そうした部分を私以外にさらけ出そうとしない。そんな特別な存在であることを喜ぶ一方で、語られる内容には身を焦がした。片想う相手の片想いについてなんて、とんだマゾでもない限り聞きたいとは思わないだろう。私が好きな兵助は、一つ下の綾部が好きだという。私、ではなく。
 そんな手垢のついた思考を繰り返していると、兵助が不意にがっと私の腕を掴んだ。目を丸くすれば、俯いたままで低い声だけが漏れる。

「綾部と、デートに行くことになった」
「そう…か」

 よかったじゃないか。全く感情のこもらない平坦な声で言えば、そこでやっと堰が切られたのか今回の経緯を話し出した。いつもなら何らかの気紛らわしツールがあるのだが、今日は腕を掴まれているため何もできない。ただ、ほんのり上気した顔で話す兵助の端整な顔を眺めるだけ。最近綾部に言われてコンタクトにしたというが、眼鏡のままの方がよかった。こいつの綺麗な顔を知っているのは私だけでいい。その顔が、存外豊かな表情を見せるなんて、私だけが知っていればいいのに。兵助は恋する乙女そのままに、どうしようかと言って首を傾げた。

「どうしようかって?」
「だから、デート内容とか、服とか…」
「あぁ…」

 自分の身なりに無頓着な兵助は、私服のバリエーションが少ない。着飾ればどこに出しても文句なしの美少女なのだが、本人にその気がないならと今まで口を挟むことはなかった。それに、変な虫が付いても困る。できるならばそのままでいてほしかったが、それは嫌だと兵助は言う。

「だって綾部めちゃくちゃ可愛いじゃないか。一緒に歩くなら、それなりの格好しないと…」

 言いながら頬を染める。綾部と連れ立って歩く自分の姿でも想像したのだろう。小さく、綾部よりお前の方が可愛い。と言ったが聞こえていないようだった。

「仕方ない。この三郎様が一肌脱いでやろう」
「本当か!?」
「デートはいつなんだ?」
「次の日曜日」
「じゃあ土曜日に服買いに行こうか。ついでにデートコースも考えてあげるから、綾部から行きたいところリサーチしといて」

 ほんの少しだけ下心を込めた台詞。綾部より先に兵助とデートに行ってやろう。綾部より先に、手を繋いだり腕を組んだりしてやるんだ。我ながら可愛らしい嫉妬心の発露じゃないか。心の中でだけ苦笑して、ゆっくりと腕から兵助の手を剥がす。丁寧に、長く触れていられるように。そして、やっと自由の身になったところで立ち上がり、また台所へ向かう。兵助に背を向けたところで、

「三郎いつもお洒落だから。凄く安心した」

と声がかけられた。爆発的に顔が赤くなるのを感じて、何も言わずに部屋を出た。
 だって、だって。兵助が来るであろう日だけは、家の中でも気を抜かないで。兵助の気に入るようなシンプルで、でも可愛らしい格好を心掛けて。それが報われたような、バレたようなくすぐったい気持ち。兵助は何も考えずに言ったのだろうが破壊力は抜群だ。胸に手を当てて深呼吸。次いで冷蔵庫から今日のおやつの豆乳プリンを出す。これだって、実は手作りなんだけれど、兵助はそんなこと知らなくていい。こんなにべた惚れだなんて、気付かなくていい。
 何食わぬ顔で差し出したプリンに、兵助は顔を輝かせてありがとうと応じた。綾部はプリンが好きなんだよなぁと続けてプリンを頬張る隣にぴったりと寄り添って、一口をねだった。これくらいなら友達同士ということにしておけるだろう。間接キス。いつかは本当にキスをしたいと思いながら、今の関係に甘んじる。
 甘んじていると知っている。けれどもそれは終わりにしよう。私は健気な女じゃない。兵助が幸せであればそれでいいなんて思えない。早く失恋すればいい。そうしてこの腕の中に落ちてくればいい。慰め宥めて少し叱って、惚れさせる自信はあるのだから。
 幸せそうな兵助を、目を細めて眺めながら覚悟を決めた。この片想いは、必ずハッピーエンドにしてやると。



――
 三郎の乙女っぷりが半端なくてすみません。♀くく←♀鉢にしか見えませんが♀鉢→♀くくです(二回目)。
 にょたは初めてです。楽しかったけど難しかった…。口調とか口調とか口調とか…。
 余裕ができたら、服を買いに行く下りも形にしますね。
 ネタを提供してくれた紫村君に感謝!!
 タイトルは静夜のワルツ



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