今日は山に近付くな。下級生は先輩方からそう言い渡されていた。耳を澄ませば、微かな爆音が時折響く。目を凝らせば、微かな煙がたなびく。鼻を利かせれば、微かな硝煙の香りが漂う。
 近付くなと言われれば、ぎりぎりまで近付きたくなるものだ。井桁模様が十人と一人、裏々山の手前で固まる。

「どうすんだよ。行くのか」
「近付くなって言われたけど」
「気になるよねぇ」

 心を決めたか、そろり足を踏み出して山中へと入る。春。新緑と花の香りがする。甘い甘い。

「…あれ?」

 目をこすった。視線が滲んで仕方がない。甘い香りがたなびいて、意識が――

「あ……」

 好奇心旺盛な幼子十一人は、穏やかな眠りに落ちて行った。




 縁側で茶を嗜みながら、木下は顔を上げ山を見遣った。何が起こっているのか察しているが、その表情は穏やかだ。手は出さぬ、手は貸さぬ。このようなことは教師生活の中で幾度かあった。何の変哲もないただの戯れだ。
 温んだ茶を啜りながら、自らの思い出に重ね合わせて笑みが零れた。



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