待機が苦手でないこと。忍にとってそれはなかなか重要なのではないかと兵助は思う。樹上、火縄銃を構え太い枝に寝そべる。胴は腰紐で枝にしっかと括り付け、足を絡めて体勢を安定させる。遥か下、ぽっかりと開いた空間で四つの影が組んず解れつ入り乱れるのを静かに見据えながら身動ぎ一つしない。深緑の衣にしっかりと視線を当てて、射線をひたと向け、ただ待つ。出来れば長次がいいという要望は目下の二人も知っているが、それは難しいだろうと分かっている。前衛もこなす長次を止めるには、流石に二人がかりでも五分だ。それにそもそも、これは射るのが目的ではない。
 眇めた目の先、仙蔵が三郎に抱きかかえられ、動きを止めた。

「っ…」

 破裂音。狙いを違わず仙蔵の太腿を撃つ。火縄の威力では貫通せず、三郎に害を及ぼさないだろうという予想は的中。崩折れる仙蔵を目に映しながら、兵助は素早く火縄に新しい弾を込める。指先が焦る。早く早く。でないとあれがやって来る。

「みぃつけた」

 上から降ってくる声。次いで落ちてくる鍛え上げられた体躯と、歯を剥き出した凶悪な笑み。小平太は落ちる勢いそのままに兵助のしがみ付く枝を蹴折った。追撃をかわすため、敢えて身体を摺り落とし、同時に枝と身体を密着させていた腰紐を解いて落ちる。受身も取れぬ不自然な体勢と、落ちれば確実に背骨を折るであろう高さ。差し伸べられた兵助の手は、しかし無意識ではない。
 手首に黒い鞭が絡みつく。勘右衛門が得意としつつもその存在をひた隠しにしていた鞭。己も落下しながら二人は黒鞭を介して結ばれる。更に上から自由落下する暴君の存在。鞭が枝に引っかかり止まる。釣瓶のように勘右衛門が地に降り立ち、素早く鞭の柄から手を放した。兵助が着地するのと小平太が着地するのはほぼ同時。間髪入れず小平太に向かう勘右衛門を囮として、兵助は装弾を済ませた火縄を一点に向けた。それは、張り巡らされた糸を正確に撃ち抜く。
 轟音と炎が上がる。それは計算に従い、三郎達四人と兵助達三人を綺麗に分断した。




sakura-title

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -