逡巡は一瞬。軽く地を蹴り跳躍する三郎。空いた前方に八左ヱ門が駆け込む。そのままの勢いで長次が構えた苦無に棒手裏剣の仕込まれた右腕をぶつけ押し切ろうとする。踏み締めをきつくし耐えるその視線が噛み合った。どちらも引かぬ。食い縛った歯を剥き出しににぃと笑う八左ヱ門に、長次は底知れぬ悪意を感じた。右腕に左腕を重ね加重が増す。
 滞空する三郎は仙蔵にとって格好の的。打つ手裏剣はしかし引き攣る痛みに狙いを僅かに逸らし、薙ぎ払われる忍刀の一閃に打ち払われる。刃を下に向け落下する三郎を一歩引いて避ける。地に刺さる刀は墓標か。衝撃を殺すためしゃがんだ姿勢のまま苦無が低く弧を描く。この身体では接近戦は不利と考え、後方に大きく跳躍する。

「三郎!!」

 声と同時に三郎は、突き刺した刀の柄を足場に跳んだ。八左ヱ門の左手が下ろされ、長次の苦無が頬を浅く切り裂く。しかしそれは想定内。姿勢を崩すことなく刹那微塵が飛ばされた。それは仙蔵目掛けて放たれた。三郎は素早く長次の背後に降り立ち、同時に八左ヱ門は低い姿勢で苦無の追撃をかわし回り込む。微塵は仙蔵の首と、とっさに庇おうとした左手首の両方をまとめて絡み付いた。
 一瞬で相手を入れ替えた五年生二人。八左ヱ門は仙蔵を追い詰める。遠距離戦闘を得意とすることは知っている。ならば距離を取らせなければいい。森に逃げ込もうとする背中が止まった。張り巡らされた糸。火薬委員を舐めてはいけない。彼らは火遁を誰より得意とする。その背目掛けて組み付こうと身を投げる。
 背後の三郎に長次は正しく行動した。振り返ることなく身を前方に投げ出し前転。その頭上を殺気が舞った。構えられた短槍。あらかじめこの地に隠していたものか。誘い出された自覚はあったが、それがこんなに致命的だとは思わなかった。手放すことのなかった苦無を改めて構え対峙する。先に踏み込んだのは三郎の方だった。
 組み付こうとする八左ヱ門。逃げ道はない。組み付かれたら終わり。最早思考ではなく反射で、その肩に手をついた。馬跳びの要領で背を超え、目前の三郎に手裏剣を飛ばす。その目的を正確に汲み取った長次が、低く姿勢を取る仙蔵の頭上に幾分短くなった縄標を投じる。仰け反って避ける八左ヱ門。動きが止まった一瞬を見逃さず三郎の背中に苦無を突き立てようとした。背後から強襲する手裏剣は吸い込まれるように突き刺さったが、片手で投じられたそれに威力はなく深手を負わせるには至らない。避けることを放棄して背筋を固めた三郎の判断が秀逸であったことを示す。くるりと振り返った三郎は構えた槍で苦無を弾き、同時に槍を手放してほぼ捨て身で飛び込む仙蔵を抱き止めた。如何せん片手が封じられたままでは拘束を解くのに難儀する。仙蔵の動きが止まった。




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