背後から不意に矢羽音が響く。
――雷蔵。予定通り。負傷なし。
兵助。ちょっとやりすぎ。負傷なし。
俺。甘かったかも。負傷なし。
三郎。予定通り。負傷なし。
布陣計略、ろの一一○にて。
概ね計画通りに事は進んでいる。呼び寄せた鷹の足に長赤布をくくり、飛ばす。
――お前も行け
奏でれば、そこだけは肉声で
「…お前に武運を」
「互いに武運を」
振り返ってもどこにいるのか分からない。奴はいつの間にか消えた。
高く空舞う大きな鳥。赤くたなびく薄布。七松先輩を封じ込める必要があるそうだ。どうせ勘が遊びに夢中になったのだろ。
「伝令か?」
掠れてなお張りを失わない声に応える義務は無い。無表情の俺に声は笑いを零す。
「お前が近接型だと、分かってはいたがな。ご丁寧なことだ。骨にも内臓にも害は及ぼしてないんだろう?」
くつくつと笑う。傷め付け足りないか。無造作に、転がったぼろくずのような先輩の脇腹を蹴飛ばした。とたんに呻いて咳き込む。当たり前だろう。首から下は、見れたものじゃないくらいにはしてある。
「久々知」
うっとうしい。負けを晒して何を言うのか。
「六年を舐めるな」
その六年は、皆あんたと同じく負けたんだ。
「ここからは本気でかかるぞ」
一瞥をくれ、その場を後にした。立花先輩は地面に臥したままくつくつ笑い続けていた。
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