――ついてないなぁ
口には出さずに心の中だけで呟いた。本当についてない。よりにもよっての七松先輩だ。苦手なんだよなぁ。こういう何も考えて無さげな人って。
しかしまぁ、やらなきゃ仕方ない。左手に握った万力鎖を揺らす。回す。徐々に角速度を上げて、先輩の後ろ姿に目を凝らす。狙いは右肘。目的は動きの鈍感。
投じた鎖は、寸分違わず先輩の腕を締め上げた。
人が驚く顔を見るのは好きだ。鉢屋のように積極的に驚かそうとは思わないが、小さな爽快感がある。
「これは尾浜か?出てこい!!」
声は大きいが怒りは含まれていない。出てこいと言われて出る馬鹿は存在しないだろうに。周りをキョロキョロする先輩の後ろに立って、ちょいと悩んでみる。先輩の利き足、どっちだっけ?どっちでもいいや。両方やればいいんだから。
至って無造作に、苦無を左足甲に突き刺す。
「尾浜っ!!」
先輩が振り返る前に身を引く。先輩は苦無を引っこ抜いて地面に叩きつけた。
「どこにいる!!遊んでやるから出てこい」
はい残念。遊んであげてるのは俺の方です。次は迷わず右足甲。ついでにちょっと捩る動作も加えてみたり。
「っ尾浜!!」
とうとう怒号が上がった
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