腰の得物が重い。今日のために誂えた幅広の刀。不格好なそれがしかし必要なのだ。居合いには向かないそれを抜き放ち、息を整える。

「俺をご指名ですか?先輩」

 振り返るより少し早く炮烙火矢が飛んだ。けれどもそれは予想済みで。

「くっ――」

 刃の腹で火矢を逸らす。明後日の方向で爆発するそれを尻目に距離を詰めると、先輩もまた刀を抜いた。
 刃のぶつかり合う音。こちらの踏み込みが深く、刀が重い分、先輩の足が下がった。

「何だそれは。見てくれの悪い」

 それは余裕綽々で、だからこそ、先輩が可哀想に思えた。これは純粋に先輩をぶちのめすために誂えたのに、天才は往々にしてその油断が命取り。今度三郎を説教するときに引き合いに出してみよう。
 相手の刃を押し切り、遠心力のまま回る。ぴしり、と音がして、先輩が更に二、三歩下がった。その頬に赤い筋が、一拍遅れて走った。

「目を狙ったのに上手く避けましたね」
「私を舐めるなよ久々知。この長髪とて伊達ではない」

 髪の中の隠し針。気付かれるのも承知の上だというのは理解しているんだろうか。  まぁ、それはどうでもいいことなんだけれど。
 強く踏み切って躍り込む。刀は手に余るほど大きくて、とてもじゃないが腕力だけでは振るえない。くるりくるりと回りながら緩急をつけて相手の刀にぶつける。

 じわり、と先輩の額に汗が滲んだ。




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