「不破」

 振り返った不破は、いつものようにふんわりと笑った。その手は何も掴まずにただ身体の横で揺れている。

「中在家先輩。探してくれたんですか?」
「ああ…。お前を探していた。まず、お前と話がしたかった」

 あれ、先輩が珍しく饒舌だど、茶化すように呟いて、一歩近づく。

「どうして、なんて訊かないから、もう止めろ。お前たちでは六年生に敵うまい」
「それは、やってみないと分からないんじゃないですか?」
「お前たちが思っている以上に一年の差は大きいんだ。投降しろ。お前にその意思があるのならば、俺がお前を守る。」

 不破は更に笑った。委員会で見せる、陽だまりのような暖かい笑顔だった。

「じゃあ、僕たちみんなが先輩に投降したら、先輩は僕たちみんなを守ってくれるんですか?」
「守ろう」
「先輩かっこよすぎですよ。即答とか」

 でも――

 予備動作もなく不破が地に沈む。同時に放った縄標は宙を掻いて、手の内に収まるまでには数秒にも満たない隙。そこへ滑り込む蹴足に耐えるため、重心を深く取ったところで、それがフェイントだと気付いた。

「ありがとう先輩。でも、もう僕たちは契約してしまったんです」

 右手が薙ぎ払われ、その中指爪に似せて被せられた薄い鉄片が縄標の縄を切り裂いた。




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