古木、と呼ぶにふさわしい桜。桜の木というのは、花が咲いていないときにはそれが何の木なのか分からない。しかし今は春。盛大に、咲き誇っている。

 ざあと、揺れる。揺れる中で、鎖。

 手首に食い込んだ鎖は、その薄い皮膚を無残にも引き千切っていた。目にも鮮やかな深い藍色の布と、色素の薄い茶髪が桜に合わせて揺れる。うなだれた首は揺れない。ただその白いうなじを晒すばかり。

「伊作…」
「どうして…」

 言葉は意味を成さない。元より意味など求めていない。

「五年生…か」

 ならばいいではないか。殺してやろう。迅速に、何が起こったかも分からぬままに。これが宣戦布告であることは明らかだ。存分に、思うままに殺しつくしてやろう。

「そう、上手くは行かぬようだ」

 挑発的な、殺意交じりの気配が五つ。

「散れ」

 冷たい声で始まった。




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