後始末を終えて風呂場から戻ると、三郎がベッドの上で土下座していた。

「済みませんでした」

 とりあえず無視して冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、喉を潤す。半ば記憶から抜け落ちているが、どうもここ数年なかったくらいの声を上げたらしい(ご近所の視線が怖い)。水が気持ちよく沁みる。

「あの…兵助さん?」
「何」

 ボトルを投げれば器用に受け止める。ちょっと期待外れ。まぁいい。本日何本目か分からない煙草に火をつける。

「お話があるんですが」
「聞くよ。何?」
「こっちに来てほしいんですが」
「ベッドで煙草は吸わない主義」
「今日だけ破って」
「一回死んどく?」

 それでも灰皿に煙草を残して三郎の隣に座る俺は、いい奴の部類に入るんじゃないか。三郎は、手をついて深々と頭を下げた。

「好きです。付き合ってください」
「遅せぇよ馬鹿」

 それから、ゆっくり初めてのキスをした。初めてで、始まりのキス。



 何が始まるのかなんて、知りやしないけど



後書
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