「あ…」

 侵入する熱。痛みは薄く、違和感に総毛立つ。自分の意思とは関係なく目頭が熱くなる。気持ちいいと気持ち悪いの中間。酷く、満たされる感じ。

「ぁ…」

 三郎の声。顔は見えなくて、切羽詰まった声だけ。腰骨の辺りを掴む手にぎゅっと力が入って、爪が食い込む。どちらも動けないままに荒い息を吐く。そんな時間が甘い。このまま時が止まることを願うくらい、甘い。

「さぶろう」
「兵助…ちょい、待って」

 ヤバい泣きそう。三郎の独り言はそのまま俺の台詞だ。泣きそうなくらい満ちている。何が?分からないけど。満ち足りて、哀しい。

「愛してる」

 吐息のように。

「愛してる。兵助」

 三郎は繰り返す。

「…俺も」

 愛しているよと吐息に混ぜた。現実なんて本心なんて知らない。今この瞬間だけあればいい。今この瞬間だけ、愛し合っている事実があればいい。
 重なり合う声に、久しく忘れていたセックスの意味を思い出した。子を成し命を繋ぐのが意味だと言うなら、俺たちのこの行為は何の意味も持たない。ならば、どうしてこんなに幸せなのか。

「兵助…。泣いてるの?」
「泣いてない」

 ただ、胸が苦しいだけで。
 その苦しさも、三郎が抽送を始めたことで掻き消された。何も考えられずに、声を上げた。求めた。腰を揺らしてより大きな快楽を強請った。互いに貪るようにそこにある快楽を求めて止まなくて。

 イったのはほぼ同時だった。
 後には伸ばされて届かない手だけ。




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