2012/05/29 22:17
・成長庄伊
「庄ちゃん。少しは休んだら?」
暗い部屋の中、行灯の明かりを頼りに陣を練る庄ちゃんに声をかけた。もう三日間、まともに休んでいないはずだ。
「ああ、伊助。この一幕練り上げたら寝るよ」
「いつもそう言って寝ないじゃないか」
「完璧にしておきたいんだよ。細部までね」
「もう充分完璧だって」
それでも、と庄ちゃんは困った顔で笑った。庄ちゃんの笑顔は好きだけれど、この笑顔は嫌い。こんな笑い方をされたら寂しくなってしまうから。そして、僕は知っているから。何故そんなにもこだわるのか。
「そんなには組が信用出来ない?」
ぽつりとこぼせば、やっと彼は紙から顔を上げた。
「信用出来ない訳がない。でも死人を出したくはない。絶対だ」
「みんなそう簡単に死にはしないよ」
「分かっているさ。でも」
あれから幾年か。庄ちゃんの先輩が組んだ陣が、何かの拍子に崩れ大きな被害を被った。その先輩ともう一人、死体すら見付からなかったという。
「私はそんなことにしたくない」
言い切った庄ちゃんは、疲れきって血走った目をしていて。見たくないから行灯の明かりを吹き消した。
「伊助?」
「だめ。もう寝るの」
暗闇の中、手探りで庄ちゃんの肩を掴み床に引き倒す。装備を解いていない固い腕の中に自ら転がり込んだ。こうしておけば、庄ちゃんはもう動けない。
「伊助には敵わないなぁ」
「当たり前でしょ。何年一緒にいると思ってんの?」
腕も床も固かったけれど、寄せ合った頬だけは暖かくて柔らかかった。