2012/05/05 03:10



・現パロ鉢くく


 オペミスで余っただんごになりつつあるボロネーゼを右手に、氷水とフォークを無造作に突っ込んだグラスを左手に持ち、立て付けの悪い(と言うか明らかに壊れかけている)従食室のドアを爪先でこじ開けて休憩打刻をしたところで、トング片手の三郎がずかずかとやって来て有無を言わさず俺を更衣室に押し込んだ。トングを握ったままの右手でぐいぐい肩を姿見に押し付け、左手の手袋を歯で噛んで脱ぐ。手が荒れるのを嫌がって白い布製のものと青いニトリル手袋に包まれていた手は汗でしっとりとしていた。
 その数時間ぶりに解放された手は下に降ろされて俺の右腕を掴んだ。先程のピークタイムにごった返すデシャップ下で火傷をしたところ。指先でなぞられるとちりちりと痛んだ。

「結構酷いな」
「何だよ」

 火傷をするのは初めてじゃないし(自慢じゃないか睫毛を焦がしたこともある)、そのたびに三郎はぶつぶつ文句を言うと知ってはいるのだが、ついつい喧嘩腰になってしまう。何より腹が減っている。

「お前いい加減サラダバ移れよ。痕残ったらどうすんだよ」
「火傷の一つや二つぐらい今更だろ。大体あれはデシャップのお前が無茶な上げ方するからだろう」
「お前が無理やり手ぇ出すのが悪い」

 小さな声で口喧嘩。狭い更衣室にコックコートの男が二人密着なんて、暑苦しすぎてイライラする。ついでに三郎にもイライラする。俺は現状に満足しているのに。
 サラダバに魅力を感じない訳ではない。むしろ今から暑くなっていくキッチンではオアシスだ。しかし今のストーブも気に入っているのだ。ナチュラルハイになるほどつらいピークも多いが。

「まだしばらくストーブがいい」

 頑なに睨み付けて拘束から逃れる。三郎はまだ不服そうな顔をしていたが、遠く聞こえる伝票の出た音にキッチンへ駆けていった。


 この後、二人の愛の巣に帰ってからぐちぐち三郎に火傷の痕いじられて兵助がキレる。
 どこでバイトしてるか分かった方は口チャックでお願いしますね。



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