2012/04/29 17:25


 何となく違和感を覚えてそれを指摘すれば大層驚かれ、次いで感心された。どうやら変装の方法を少々工夫してより自然に見えるようにしたそうだ。よく見ているな流石秀才。と普段の皮肉はどこへやら、えらく幼い(子供が初めて手妻か絡繰を見たときのような)笑顔でもって素直に称賛された。それが余りにも曇りないため非常に気恥ずかしくなり、ぶっきらぼうに何ぞ会話をぶったぎってその場を離れた。
 しかし成る程、考えてみれば確かによく見ている気がする。合同授業や実技演習や、友人同士で集まった時や。自然と目が追いその世の中斜め後ろから眺めていますけど文句あります?的な外交上の姿勢と内輪で見せる天才となんちゃらはの権化のような姿を、脳内の使われていない回路に漫然と垂れ流している。ふぅむ指摘されたことでまた自己理解が深まった気がするが、さてここで問題が一つ生じてしまった。
 使われていない回路は意識されたことで思考に影響を与える。漫然と流れる映像に意味を見出だし理解を試みる。三郎の仕草やら表情やらを解釈しようと躍起になる。早い話が意識し出してしまったのだ。鉢屋三郎という男を。こいつは一体何者で、自分にとってどんな存在なのだろうかと。更に厄介なことに、この意識は常に表層に位置していてちょっとでも気を抜くと他の有意義な(授業や課題について)の思考を押し退けて居座りやがる。全くもって頭の痛い問題だ。

 それが思わぬ形で解決し、輪をかけて凄まじい大問題を産み落としたのは数ヶ月後のことだった。
 三郎と八左ヱ門。たまたま見かけただけ。悪童二人といった風情で肩を抱き合い並んで歩く姿に、

「……痛い」

 きっと心はどこにあるでしょうと聞いたら十人中八人はここですと指差すであろう辺りが、痛い。

「何だ…」

 自慢じゃないが人の心の機微には疎い。しかしこれが何か分からぬほど子供でもない。

「気付かなければよかった」

 三郎ばかり見ていた。ずっと見ていた。知りたいと思った。理解したいと、そうすれば同じところに立てるかもしれないから。
 冗長な思考ばかりこねくり回してどうにか消化してしまいたかったがそういうわけにはいかないらしい。だらだらと本題を避けてきたのは自己防衛に過ぎなくて、今となってはそれも意味をなさない。

 認めよう。俺は三郎に片恋をしている。
 気付きたくなんかなかったのに…。




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -