あなたとわたしと! | ナノ

「小動物みたいだねえ」

笑いまじりに言われ、翔ははあ?と眉を歪めた。

「なんだよそれ」
「はは、ごめん。ポッキー食べてるの見たら、なんかリスみたいだったから」

音也から半ば押しつけられるようにしてもらったポッキーを食べていたら、突然隣りのレンが笑いだして。何かと思えばリスみたい、だなんて。失礼にもほどがある。
笑いすぎたのかうっすら目の端に浮かんだ涙を拭いながら、ごめんごめん、とレンが繰り返す。
それに釈然としない気持ちを抱えながら、(だいたい小動物ってのが失礼だ)翔はそれでもポッキーを食べる手を止めはしない。
一本、二本。ぽしぽし、と部屋に翔がポッキーを食べる音が響く。

「夕飯前にそんなに食べて大丈夫なのかい」
「別に。これくらい平気だよ」

ただでさえ甘いものは普段(那月に無理に付き合わされて食べる以外は)口にすることはないし、と心の中で付けくわえる。トキヤがこの場にいたらまたカロリーがどうのと小言が始まりそうだったが、まあ、それは置いておいて。
と、レンが何かを思いついたかのような顔をした。

「…そうだ、おチビちゃん」
「んあ?」
「ポッキーゲーム、しようか」

せっかくポッキーの日だからね。と言われ、はてどんなゲームだったか。そういえば音也もポッキーの日がどうのと言っていたような、と考えを巡らせるよりも、早く。

「!?」

翔が咥えていたポッキーの反対側をレンが咥えたのに、翔はびくり、体を揺らした。
お前、ポッキーゲームって、それかよ!
あんなもの、漫画の中とかだけだと思っていた。
奇跡的に折れなかったポッキーを、しかしこれ以上食べ進めることもできず、翔はどうしたものか、と考える。こちらから口を離すのは、かと言って気に入らない。

「…、」

身を固まらせたまま視線を巡らせた数センチ先、レンの瞳とばっちり目が合ってしまい、ぼっと頬が紅潮するのがわかった。
翔の動揺を捉えたのか、レンの瞳が愉快気に細められる。その唇がゆっくり、ポッキーを食べて行くのをまじまじと見てしまい、恥ずかしさのあまりに翔は目を閉じてしまう。
ふ、と身を引きかけたのをレンの腕にしっかり掴まれてしまい、動くこともできない。
わずかに伝わる振動と、息使いの近さで距離が狭まっているのが見なくても伝わってくる。
鼻に、レンの長い前髪が、触れる。
くすぐったいな、と思った瞬間、ぽき、と軽い音がして、一瞬だけ唇が掠めるように触れてから、離れていく。

「ご馳走様」
「…レンッ、お前なあ…!」

恐る恐る目を開ければ、口の端についたチョコを舌で舐めとったレンがにやり、不敵な笑みを浮かべた。

「顔、真っ赤だよ?」
「誰のせいだ、誰の!」

反射的に浮かんでしまっていた涙を、レンの指が優しく拭う。それを払いのけるようにして翔は抗議の声をあげる。恥ずかしさと、なんだか言い様のないくやしさとで心の中はぐちゃぐちゃだ。

「ごーめーんーってば、翔。ね?」
「お前、むかつく…」

困ったような顔をして眉を下げて謝るレンに再び体を引き寄せらえて、その腕の中に抱きこまれながら、翔はぽつり、呟いた。
はいはい、と言いながらレンの手が翔の髪をそっと撫でる。

「むかつく」
「はいはい」
「…むかつくから、もっかい」

体を押しのけるように腕を伸ばし、レンの顔を見上げながら翔は恥ずかしさを精一杯こらえて、そう言った。顔が真っ赤なのは鏡を見なくったって、わかっている。
おや、とレンが驚いたように目を見開く。それから、その顔が笑みを浮かべる。

「じゃあ、リクエストにお応えしましょうか?」

ポッキーも?
意識して付け加えられた一言。

「…っ、ポッキーはもういいっつの!」
「…はいひあ」

くすり、笑うのを思い切り睨みつけると、翔は今度は自ら望んで、目を閉じる。
再び触れた唇は掠めるようでなくしっかりと触れて。
ああ、チョコの味がする、と翔はぼんやり頭の端でそんなことを考えた。
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