たったひとりのための着信音 | ナノ

「ねえねえ、しょーうー」
「ん?」
「ちょっと携帯、貸して?」
「? ほい」

笑顔で手を差し出す音也に、いきなりどうしたんだよ、と思いながらも翔は言われるままその手のひらに携帯を乗せる。

「ありがとー」
「おー。ってどうしたんだよ急に?」

浮気チェックかなんかか?
少しおどけるようにして尋ねれば、あはは、ないない、と笑顔で軽く否定された。

「さすがにそこまでじゃないってば、俺」
「ほんとかよ?」
「ほんとほんと。っていうか、翔浮気なんかしないでしょ」
「…なんで言いきれんの」

俺だって男だぞ。もしかしたら共演者の女の子にぐらっときちゃったりなんか、するかもしれないんだぞ。
あっさり否定されたことがなんだか癪で、拗ねるような口調になってしまう。
すると、音也の口からさらり、こぼれた言葉。

「するわけないじゃん。翔、俺のこと大好きなんだから」
「…なっ!?」

あっけらかんと言われたセリフに、顔に熱が集まるのがわかる。
翔顔真っ赤だよーかーわいいなあもう。
音也がそう言いながら、はいありがとう、と携帯を返してきた。

「おう。で、何してたんだよ人の携帯で」
「ん?ああ、着信音のね、設定」

…?
音也の言った意味がわからず、眉をひそめる。

「前聞いたときさー、翔着信もメールも全部ケン王にしてるって言ってたじゃん?」
「…そうだっけ」
「そうだよー。でね、俺せっかく恋人なのに他の人と着信音一緒ってなんか、やだなって思って」

だからね、俺のだけ変えちゃった。
えへへ。なんて言う音也は綺麗な笑顔を浮かべたまま。

「…あ、そう」
「えっなにその反応冷たいなー!だって電話とかメールしたときに俺からだってすぐわかる方が嬉しいって!絶対!」

ね?ね?としつこく迫ってくる音也を手であしらう。

「わかった!わーかったっつの!」

ちなみに俺もねー翔の着信だけ特別に違うんだよ!そう言っているのを横目に先ほどいじられた携帯の設定を確認する。
…ちゃっかり自分のソロ曲にしてやがるし。しかもわざわざダウンロードまでして。
まったくしょうがねえな、とため息を吐き出す。
思ったよりも大きくなったそれに、うきうきとした顔をしていた音也の顔が途端に不安そうなものに変わる。

「え、ダメだった?」
「ダメとは言ってねえだろ」

携帯を閉じて、眉を下げたままの音也に手を伸ばす。
そのまんま、ぎゅうと頭を抱えるようにして抱きついてやると、うろたえたような声が腕の中から聞こえる。
けれど、聞こえないふりをして抱きしめてやった。

「ばかおとや」
「なんで!?なんでそういうこと言うの!?」

次に携帯が鳴る日がほんの少し、楽しみになった、なんて。

(言ってやんねえけど!)

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