待ちきれないから愛してよ | ナノ

俺の恋人は、ひどく気まぐれだ。
自分の作業を邪魔されるとすごく嫌がるくせに、向こうはこちらが何かしているときでもお構いなしだし、(普段は仏頂面ばかりなのに)機嫌がいいときはやたらと甘えて、甘やかしてくるし、反対に不機嫌なときは何を言っても、しても反応しないし。
基本的にマイペースというか、自己中心的であるというか、唯我独尊というか。

(まあ、常にベタベタされてもそれはそれであいつのキャラじゃないしな)

ほら、今だって。
せっかく久しぶりに二人揃っての休日だと言うのに(しばらくお互い課題だなんだのとすれ違ってばかりだった)、曲のアイディアが降りてきたと朝からずうっと、机に向かっている。
邪魔したらぶん殴るからな。そんな不穏な言葉を残して。
じゃあこっちも誰か誘って遊びにでも行こうと思ったのだが、こういうときに限って友人は誰も捕まらず。
特に見たいテレビもないし、雑誌や本を読む気分でも、DVDを見る気分でもなかったので翔はひとり、こうしてベッドの上で時間をもてあましているのだった。
本当は久しぶりだから、街にでも出かけようかと声をかけてみるつもりだったのに。
ベッドでごろり、何度目になるかわからない寝返りを打つ。
ばかさつき。そんな気持ちを込めて、背中を睨んでみるけれど、もちろん反応なんか返ってこなかった。







「―ビ、おい、チビ」
「あ、だっ!?」

突然思い切り頭を叩かれて、その痛みで目が覚める。
…どうやらあのままベッドの上で寝てしまっていたようだった。
叩かれた痛みで目の端ににじんだ涙を拭いながら、体を起こし、ベッドの脇に立つ砂月を見上げる。

「何寝てんだ」
「何、って…だって暇だったし。そういう砂月は、作曲は?もういいのかよ」
「終わってなきゃお前に構うか」

ふと壁にかかった時計を見ると、どうやら1時間ほど寝ていたようだった。
いつも通りフン、と鼻で俺を笑うような笑みを浮かべながら、さも当然かのように砂月が翔の質問に答える。

「…あっそ」
「何だよ」
「別に」
「おい、チビ」

いくら砂月が音楽が好きで、作曲を始めたら他のことなんか二の次になることはよくわかっていたけれど。
それと放置されてもいいかというのは、こう、なんというか別の問題で。
呼びかけにぷい、と顔を背ける翔に合点がいったのか砂月が口の端に、に、と笑みを浮かべた。

「なんだ、拗ねてんのか」
「っ!別に!拗ねてなんかっ…、ねえし」

ばっと顔をあげて反論してくるあたり、そうだと言っているようなものなのだけれど。
顔を赤くして眉をつりあげている翔の頬に、そっと触れると翔が肩をびくりと竦ませた。

「仕方ねえな」
「っ、な、なんだよ」
「寂しい思いさせた分、存分に愛してやるよ」

翔ちゃん?
わざとらしく名前を呼べば、ただでさえ赤い顔がさらに色づく。

「だ、」
「あ?」
「誰もそんなこと、言ってねえ!」
「…うるせえよ、チビ」

ぎゃんぎゃん喚く(まるきり説得力のない顔で)翔を黙らせるのが先だ。
そういうことでまずは、がぶり。噛みつくように砂月はその唇を塞いでやった。

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -