わたしのくちびるはひとつ | ナノ

※ナチュラルに分裂

「さっちゃんばっかりずるいです」

なあ、なあ誰か。
どうしてこうなったのか俺に教えてくれ。
ベッドの上、目の前には頬を膨らませて拗ねている那月の姿。
向かいあうように座る俺の、腹にがっちりまわった腕。
俺を腹から抱えるようにしてベッドヘッドにもたれて座るのは那月の弟、砂月。
普段はしつこいくらいに那月が那月がとうるさいくせに、今日に限ってはその那月が拗ねてもお構いなしなのだから、まったくもって不思議だ。

「…ずるくない」
「ずるいですよお」

僕だって翔ちゃん、ぎゅうってしたいのに!
とうの俺はと言えば、もう午前のうちから長いこと続いているこの攻防にすっかり止める気も間に入る気も(だってどうせややこしいことにしかならない)失せていた。
那月曰く、砂月が俺をひとりじめ(?)しているのが我慢ならないらしい。
砂月曰く、普段(学校)は那月が所構わずべたべたしているからたまには俺に譲ってくれ、ということらしい。
…って俺は物か。と言いたくてもどうせ通じないのは目に見えている。

「さーつーき」
「…何だ」

腹に回された手をぽんぽんと軽く叩いてやると、嫌だとでも言いたげに肩に顎が乗せられる。
首筋にあたるふわふわした髪の毛がくすぐったくて、思わず目を細めた。

「…やっぱり、ずるいです」

不意に、耳に入る那月の呟くような声。
ぎ、と3人分の重みを乗せたベッドが軋む音がする。

「那月?どうしたんだよ、」

後ろへ向けかけていた顔を前へ戻そうとするより早く、那月の手が俺の顎を捉えた。
そのまま顔を抑えるように、唇が塞がれる。
声を発そうとしてわずかに開いた隙間から、割り込むように那月の舌が入ってくる。
口の中を丹念に撫ぜるようにゆっくり動き回り、最後に俺の舌を絡めるようにしてからようやく離された唇に、俺は大きく息を吐き出した。

「んな、なんだよいきなりっ!」

きっと俺の顔は今、真っ赤なんだろう。
目の前、さっきよりもずっと近くにある那月の顔を睨むようにしながら、そう尋ねると、那月はだって、と口を開く。

「さっちゃんが翔ちゃんを離してくれないので、じゃあ僕は唇を奪っちゃえばいいかなって」
「意味わかんねえよそれ」

咄嗟につっこみを入れてから、ふと背後の砂月のオーラが一気に不機嫌さを纏ったことに気付いて、背筋が震えた。
このあと砂月が、想像した通りの言葉を発するまで、あと、数秒。


(てゆうかなんで俺を取り合ってんだよこいつら!)
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