レンって、ずるい。
突然、目の前にいる恋人からそんな言葉が飛び出してきて、レンは思わず目を瞬かせる。
「どうしたの、急に」
自分の目線より下にある柔らかな金糸に手を絡ませるように撫でれば、ぱしん、と手を払われる。
おや。なんだかご機嫌斜めのようだね?
払った手はそのままに、顔をあげた翔がその青い瞳をまっすぐに向けてきた。
「おま…レ、レンは、恋人…とか、そういうのの、扱いには慣れてるかもしんないけどな…っ」
恋人、という単語を口にするのが恥ずかしかったのか、白い頬に朱が走る。そんなところも可愛い、だなんてひっそり思いつつ、次の言葉を待つ。
「俺、お前といるときいっつも緊張してんだからな!なんか、レンばっか余裕に見えて…ずるいって…言うか…」
い、今だって。
最後の方は尻すぼみになってどうにか聞き取れるかどうかだったけれど。そして比例するかのように、翔の視線も下がっていき、とうとう俯いてしまった。
ばさりと揺れた前髪に隠れてしまって表情は読み取れないけれど、わずか見える耳が真っ赤に染まっていることから想像には難くない。
きっとこのあとどうするか、なんて考えていなかったのであろう、翔は俯いたまま黙りこくり、次に何を発するべきか、考えあぐねているようだった。
…ほんとに、まったく。
「ねえ、おチビ」
「…な、なんだよ」
愛しさのあまり笑みがこぼれて、呼ぶ声もわずか、震えてしまったけれど、翔はそれを笑われたと勘違いしたのか、ほんの少しむっとした表情を浮かべた顔をあげる。
その体を、素早く自分の方へと引き寄せ、有無を言わさず抱きこむ。何すんだよ!じたばたもがくのは、聞こえないふり。
ぎゅう、と痛くない程度に腕に力を込める。そしてそのまま、頭が自分の胸元にけるようにしてやる。
「ねえ、わかる?」
俺、おチビといるとこんなにドキドキしてるんだけど。聞こえるでしょ?
そう告げれば、腕から逃れようとしていた体がぴたり、抵抗をやめた。
「…」
「…」
「…すげえ、ドキドキ聞こえる…」
「でしょ?ドキドキしてるのはおチビだけじゃ、ないってこと」
わかってくれたなら、いいんだけど。
そう言って抑えていた腕を緩めれば、おとなしく体を離す。
「なんか、安心した」
「安心?」
「レンも俺と同じ気持ちだって、改めてわかって」
「…なにそれ」
まあ、わかってくれたなら、いいんだけど。
へへ、と頬を染めたまま笑みを浮かべるこの愛しい存在へ自分の愛を伝えるために、さてまずは、どうしてくれようか。
(君になら格好悪いところも見せられるのに!)
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