気休めをちょうだい、 | ナノ

※なんか薄暗い

これは、夢だ。
だって確かに、おやすみ、と告げて目を閉じたのだから。なのに酷く、どこまでもリアルな、夢だった。
目の前が、ちかちかする。
ドクドクとうるさいくらいに鳴る心臓を服の上から思い切り握り締めるけれど、痛みはちっともひいてくれはしない。
荒くなる呼吸。上手く吸えない。俺、どんな風に吸って、吐いてたっけ。ああ、わからない。
生理的な涙が溢れるのを感じる。泣きたくなんかないのに、いつもいつも勝手に出てくるから本当に困る。
苦しい。辛い。苦しい苦しい苦しいいやだ死にたくない俺は、俺には夢が、まだこれから叶える、叶えたい、夢が、ある、のに、やだ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

「…翔!」
「っ、ぁ、」

耳元、名前を呼ばれて意識が呼び戻される。
目を開くと、滲む視界のその向こうに、顔を歪めた、オレンジ色。

「レン、」
「すごい、魘されてた」
「レン、レン…っ」

大丈夫?汗、かいてるよ、そう言って首筋に触れた手はひやり、冷たい。
うわごとのように、レンの名前を繰り返し呼ぶ。そうしてないと、目の前からいなくなってしまうかもしれないなどと、言い様のない不安に苛まれる。
壊れたおもちゃみたいに何度も何度も、嗚咽混じりに名前を呼ぶ俺の体を、レンがそっと抱き起こす。
力が入らない手で、レンに縋ると優しく、でも力強く抱きしめ返された。
優しく背中を撫でる手のリズムに合わせるように呼吸を少しずつ取り戻していく。
本当に発作を起こしたわけではなかったけれど、それと同じくらいに辛くて、苦しかった。

「…落ち着いた?」
「…怖かった」
「うん」
「死ぬかと、思った」
「…」
「もう、みんなとか、…レンに、会えなくなるんじゃないかと、思った…っ」

抱きあったまま、背中を撫でられるまま、ぽつり、ぽつり、言葉を溢す。
夢の中感じたことは、普段発作が起きるとき、いつも感じることで、いつかは訪れるそれは、覚悟を決めていた、つもり、だったのに。
つもり、は結局つもり、でしかなかった。
死ぬのは怖い。二度と会えなくなるのは怖い。置いていくことが、置いていかれることが、怖い。
おさまった涙がまた、目の端に滲む。
鼻をすすった音に、レンが体を離す。
そしてその指が涙を拭って、唇を降らした。右目、左目。それから額。
最後に俺の唇に触れて、レンの唇が離れていく。

「翔が見たのは、悪い夢だ」

甘いテノールが、紡がれる。
悪い夢は、俺が取り除いてしまおう。そうすればもう大丈夫。
もう怖い夢は、君を怯えさせたりはしないから。

「ね?」

どこまでも優しい声が響く。
そしてレンの手が目の前に翳される。目を閉じるよう促すそれに抗うことはせずにゆっくりと、瞳を閉じる。
閉じた瞼越しに再び唇が触れる。
―今度は、優しい夢が見れるような気が、した。
そんな気がしながら、ゆるり、眠りの淵へ、落ちていった。

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