ほんとかうそかは、どうでもいいの。
「俺が猫なら、じゃあ砂月はうさぎだな」
ぽつり、静かな部屋に落とされた言葉。
一瞬その意味を取り損ねて、らしくもなく瞬きを、数回。それから頭の中で言葉を繰り返してみたけれど、意味はやはり、わからない。
「…何が言いたい」
「いや別に?そのまんまだけど」
「は?」
数日に一度の習慣となっている、ネイルの塗り直しをしながら、ベッドの淵にもたれるようにして座るチビは、俺の方を見ずにそう応える。
「お前、俺のこと猫みたい、って言うから。じゃあお前は何だろうなって思っただけ」
「…そこで何でうさぎが出てくる」
ぴょんぴょんと忙しないのはお前の方だろ。そう言ってやるとちっげえよ!つーか忙しなくねえし!と抗議が入る。
「ほらよく言うだろ」
うさぎは寂しいと死んじゃうのよ、って。
そこで初めてチビは自分の手から目を離して、俺と視線を合わせて、そして、に、と笑った。
「何だそれ。つーかそれ、迷信だろ」
「でも事実だろ」
きゅ、とマニキュアのボトルの蓋が閉まる音。手をぱたぱたと振って、塗りの出来具合に満足したようによし、と呟く声がする。
換気のために開けられた窓はそのままで、ときおり風が吹きこんでくる。
ぺたり。スリッパの音がして、それからベッドに体重がかけられて、重みで一瞬だけぎしりと音が鳴る。
那月のベッドの上で譜面を見直していた俺の背中にのしかかるように、チビが背中をおしつけてくる。
邪魔だ。そう低く告げてもあーはいはい、と軽く流される。
「俺、知ってるんだからな」
ほんとはお前、寂しがりだってこと。
だから俺が寂しくないように一緒にいてあげよう、なんて笑い混じりの声。くつくつと背中越しに伝わる振動。
「チビが」
「うっせえ。チビ言うな」
「生意気言ってんじゃねえ」
「はいはい」
背中越しでよかったと頭の端で密かに思いながら、いつものように、言葉を投げる。
けれどそれだけじゃ物足りなかったから、楽譜を放って、人の背中に完全に体重をかけているチビの体を無理やりに引き寄せて(痛い!だなんて声は聞かなかったふりをして)、有無を言わさず唇を塞いでやった。
体を離したあとに、せっかく塗ったマニキュアがよれたらどうしてくれんだバカ!となじられたけれど、そんなこと知るか、バーカ。